「高嶺くんって、ほんと王子様みたいだよねー」

「超イケメンだし、もう学校中で噂になってるみたいだよ」

「その髪って地毛?高嶺くんってもしかしてハーフなの?」


あれから何時間か授業を挟んだ現在、高嶺くんを囲む生徒の数は一向に減る気配がない。

むしろ嫌な予感の通り、その数は時間が経つごとに増していった。昼休みになった今なんて、クラスメイトだけじゃなく他クラスの生徒まで集まる始末だ。


「髪も目も遺伝だよ。祖母が北欧の産まれなんだ」


傍から見るだけでも、どっと疲労が溜まりそうな光景。けれど当事者の高嶺くんは、朝から決して笑顔を絶やすことなく周囲の干渉に応え続けていた。

そろそろ弁当を広げたいけれど、こんなに周りに人がいる中で食べるのは勇気がいる。

仕方ない。今日は別の場所で食べようかな……そう思い、静かに立ち上がった時だった。


「──高嶺くんて花も似合いそうだよね。ほんとの王子様って感じ!」


そろりそろりと教室の出入り口へ向かおうとした時。

ふと女子生徒が発したセリフが気になって、忍び足をピタッと止めた。


「わかるー!バラとか?なんかそういうのめっちゃ似合いそう」

「あ!そこの花とか超似合いそうじゃない?」


キャッキャと楽しそうな声が響くけれど、その中に混ざるはずの高嶺くんの声が聞こえないことに気が付いて慌てて振り返った。

視線の先に見えたのは、窓辺に置かれた花瓶から乱暴に花を一輪抜き取る女子生徒の姿。

今朝水をあげたばかりの繊細な花、それを雑に扱われた瞬間を前にして、ぶわっと言い様のない感情が湧き上がった。

けれどそれだけじゃない。ドクンと嫌な鼓動が鳴る出来事は、それだけでは終わらなかった。


「ねーねー高嶺くん。ちょっとこれ持ってみてよー」


あろうことか女子の一人が高嶺くんに、半ば押し付けるようにその花を差し出したのだ。