僕は花が好きだ。

ガーデニングが趣味の母の影響で、幼い頃から花の美しさに魅力を感じるようになった。

それは高校生になった今も同じ。どの委員会よりも楽だからという理由で選ばれやすい美化委員会にも、それはもう真剣な思いを抱きながら入った。

花の水やりは面倒だからと誰もやりたがらない。それを良いことに、毎日のようにたくさんの花の世話をする。我ながら幸せな学校生活だ。

そんな日々を送る僕は、今日も今日とて誰よりも早く登校し、学校中の花を眺める為に校舎を散歩していた。


「うん。今日もみんな元気そうだ」


ここは一学年の教室が並ぶ四階の廊下。

僕は二年生だから、生徒が集まると目立ってしまう。だからこうして、いつも誰もいない朝早くに登校するのだ。

人気のない廊下をゆっくりと歩きながら、窓際に飾られた花瓶を見て頬を緩める。


「あぁ、でもこの子は少し具合が悪そうだな……この子だけ水やりの頻度が少ないのかも」


ふと目を付けたのは窓際の隅、柱の影になるように置かれた花瓶だ。

場所が分かりづらいからか、かなりの頻度で水やりを忘れられているらしい。


「少し場所をずらしておこう。大丈夫!きっと誰にもバレないはず」


小声で大丈夫と唱えながら、花瓶をそっと持ち上げる。