僕は箱の中から真澄のために買ってきた指輪を取り出した。真澄の目が大きく見開かれた。
「左手の薬指を出してくれないかな?」
 僕が頼むと真澄はゆっくりと僕の前に左手を差し出した。僕は真澄の薬指に指輪を通してみた。指輪が落ちないように手で持ったまま僕は尋ねた。
「真澄、ずっと僕の傍にいてくれるよね?」
「うん」
 答えた真澄の目に堪えていた涙が溢れ出した。真澄が思わず両手で顔を覆った瞬間に信じられないことが起こった。指輪は僕の手から離れ、顔を覆った真澄の左手の薬指に収まっていた。
「え!」
 真澄は驚いて顔から手を離すと、何度か手のひらの向きを変えて、自分の薬指にはまったまの指輪を何か不思議なものでも見るような目で見つめた。それから真澄は恐る恐る左手を伸ばして僕の頬に触れた。
「感じる。暖かい」
 僕は右手で頬に当てられた真澄の手を包み込んだ。
「僕も感じるよ。暖かいね」
 僕はそのぬくもりが何物にも代えがたいもののように思えた。
「私、幸せすぎて成仏しちゃいそう」
 冗談めかして言った真澄の言葉を僕はすぐさま打ち消した。
「ダメだよ。真澄はずっと僕の傍にいてくれるって約束したじゃないか」
「そうね」
 真澄はそうつぶやいて笑顔を僕に向けた。僕は両手で真澄の肩を引き寄せて思い切り抱きしめた。真澄の体の温もりを僕は全身で感じた。それは決して冷たい死者の体ではなかった。