「別に上手に歌えなくても良いんじゃないかな。上手に歌えば気持ちが伝わるってわけじゃないし、上手く歌えなければ気持ちが伝わらないってわけじゃないと思う」
 その言葉を聞いて僕の心から迷いが消えた。そうだ、その通りだ。歌えば良いのだ。結局のところ、僕は歌いたいから歌を作っているのだから。
「ありがとう、真澄さん。じゃあ、歌わしてもらうよ」
「うん」
 真澄の目から訴えるものが消えて、眼差しが優しいものに変わったのが分かった。
 僕はケースから三線を取り出すと手早く調弦を済ませた。
「じゃあ、これから波照間島の歌を歌うね」
「私に大きな期待をさせたんだから、さぞ良い歌ができたんでしょうね」
 真澄の物の言い様はすっかりいつも通りに戻っていた。
「そうだね。期待を裏切らない出来だと思うよ」
「そう。それでタイトルはどういうの?」
 僕は真澄の問いに素直に答えた。タイトルぐらいは明かしておいても良いと思った。
「タイトルはね『南十字の下で』にしたんだ」
「そう、南十字星の下で何かが起こるわけね」 
 真澄の期待が膨らむのがわかった。
「その通り、何が起こるかは聴いてのお楽しみかな」