八月十一日(火)

 夜、僕たちは、もう初めからノートパソコンを置いた机の前に椅子を並べて次の歌の打ち合わせを始めた。
「さて、次は新城島の歌を作ろうと思うんだ」
「『あらぐすく』って、どういう字を書くの?」
 「あらぐすく」とい聞いて真澄に漢字が思いつかないのは至極当然だった。
「『新しい城』と書いて『あらぐすく』と読むんだ」
「へえ、そうなんだ」
 真澄は少し驚いた様子で答えた。
「ところで、また相談があるんだけどな」
 初恋の話をさせられた前回の経験を打踏まえてか、真澄は少し身構えたような態度を取った。
「ええ、私にはもう、歌のネタになるような恋の話はないわよ」
「いや、もう一歩進んで、今度は真澄さんに歌詞を書いてほしいんだ」
 僕の要望は真澄の予想を上回っていたようで、真澄はかなり驚いた反応を見せた。
「ええ、無理よ」
「そんなことないよ。だって昔は詩とか小説とか書いていたんでしょ」
 僕は真澄の反応を無視して、できると判断した根拠に言及した。
「まあ、そうだけど」
 真澄が痛いところを突かれてひるんだところで僕は更に追撃を入れた。