「どうだった」
 歌い終えて僕は尋ねた。
「うん、良かった。ハッピーエンドにしてくれたんだね」
 真澄はどこか嬉しそうだった。
「いや、前の五曲のうち三曲は暗いイメージだったから、バランスを取ろうとしただけだよ」
「そうなの?でも嬉しいな」
「気に入ってもらえてよかったよ」
 正直、僕は少し安心した。ただバランス云々の話が嘘なのはばれているような気がした。
「私の初恋もこれでめでたく成仏できたかな」
 その言葉の真意が僕にはつかめなかった。だから尋ねた。
「何、それ?」
「うん、この歌を聴いて、私の初恋も、やっと思い出にできたような気がする」
 嬉しそうな顔でそう言ったのに、真澄は僕に言わせれば余計な一言を付け足した。
「ああ、といっても次があるわけじゃないけどね」
 約三十年前に真澄は確かに死んだ。真澄の人生がすでに終わっているのは紛れもない事実だった。では、その後、こうして僕と関わっている時間は真澄にとって何なのだろうと僕は思った。
 そして、僕にとって真澄とはいったい何なのだろうと考えた。答えは見つからなかった。