八月九日(日)

 黒島の歌もやはり完成するまでは真澄には聴かせたくなかった。そんなわけで僕はまたカラオケボックスで歌作りに没頭した。

八月十日(月)

 黒島の歌が無事に出来上がり、いよいよ真澄に聴いてもらう時がやってきた。僕たちはいつものようにベランダへの扉の前に座布団をしいて並んで座った。
「なんてタイトルなの?」
 真澄が尋ねた。
「『黒島ブルー』にしたよ。黒島の海は格別に青いからね」
「聴くのが楽しみだわ」
 真澄の笑顔にはいつも以上に歌への期待が感じられた。
「あんまり期待しないでね。ああ、それと、これは真澄さんの初恋をモチーフにしているけど・・」
「わかってるわよ。モチーフにしただけだって言うんでしょう」
 真澄が僕の言葉を遮った。
「じゃあ、聴いてくれる」
「うん」
 僕は三線でイントロを弾き始めた。「黒島ブルー」は僕の歌に多い四拍子のスローバラードで、メロディー的にはやや明るい曲に仕上がっていた。イントロに続けて僕は真澄の初恋からヒントを得た歌詞を歌い始めた。