「結局、こうなるか」
樹の自転車の後ろに乗り、呟くと
「何か言った?」
樹が自転車を漕ぎながら聞いてきた。
「何でもありません」
私がため息混じりに答える。少しずつ樹離れするために自分の自転車に乗ってきたのに、これでは意味がない思った。
「変なの」
私の内心を知るはずもない樹が首を傾げた。
「菜穂、バイバイ」
クラスメートの子が二人で並んで歩きながら手を振る。
「バイバイ」
「樹くん今度デートしてねー!」
二人のうちの一人の子がそう叫ぶ声がしたが、自転車はもうその子の横を通り過ぎていた。だけど声は聞こえていたようで
「なんじゃそりゃ」
と前を見ながら、樹は笑っていた。
樹の制服の腰を掴み、樹の自転車は安全運転で走る。
樹の自転車の後ろは座っていると痛くなるし、断然ガタガタする。
でも落ち着いてしまったのは恐らく樹の大きな背中のせいだ、と思った。
朝の通学で自分の自転車に乗っていた時に、私は思ってしまっていたのだ。
今日初めて樹の後ろに乗った青山を見て、『いいなぁ、青山は』なんて。
私はいつも乗せてもらってるくせに。
だから今、落ち着いている。
でも早く……樹から離れなきゃ。
樹に分からないように。
樹といる時間は無言のままでも全然居心地がいい。けれど何か話しかけようと私は口を開く。
「今日歓迎会、大成功だったね」
樹の背中を見ながら声をかける。
「青山のせいで大変な目にあった」
樹はため息まじりに言った。
「本当だね。でも私は青山にお礼言ったけどね」
「お礼?」
「歓迎会、樹を選んでくれてありがとうって」
「……まじかよ、菜穂」
樹は前を見て、運転しながら笑っていた。
「今日は本当青山はひどかった。だから俺は後日、青山にお礼を貰う約束を取り付けた」
樹がぼやくように言って、私は少し笑ってしまった。
「お礼? そうだよね。貰ってもいいよね、あの無茶振りは。……何貰うの?」
「サボテン」
まさかのものに、私は一瞬黙り込む。
「それ、お礼になるの?」
「貰うんだ。石井さんの家にある、菜穂と同じもう一つの金鯱」
樹がさらっと言った。そういえば石井さんの家には、私の持って帰った金鯱の隣にそういえばもう一つ、同じ金鯱のサボテンがあったことをぼんやり思い出す。
「なんだ、樹も気に入ってたんじゃん」
「菜穂がサボテン貰ってはしゃいでたからさ、俺も欲しくなったの」
「……はしゃいではなくない?」
樹は笑っていた。そして話を続けた。
「菜穂も俺にお礼くれる?」
「え?」
「菜穂も俺に歓迎会やれって言ったでしょ? 俺頑張ったし、菜穂はお礼くれないの?」
唖然としたが私もやれって言ったし、納得はいかないけど、私は青山とちょっとした共犯者なのかもしれないと考える。
「……いいよ、何欲しいの?」
意を決して聞いてみた。
「じゃあ……俺の家でゲームでもやらない?」
「ゲーム?」
「カートレースで対決しよ!」
樹が無邪気に言い、私は拍子抜けした。カートレースは好きな車とコースを選び、その中でスピードを競うゲームだ。高価なものでも請求されるかと思ったが、意外と簡単なものだった。
このカートレースは過去に何度も樹の家でやったことがある。最後に遊んだのは、この学校に入学する前の三月の終わりだった。それ以来、樹の家には行っていなかったが、樹とゲームをするのは珍しいことではなかった。
「じゃあやろうか?」
そう言うと、樹は一瞬振り向いて
「うん」
と言って笑った。
「お礼って言うか、いつもと一緒だね」
「……それでいい」
樹は満足そうに頷いてからお気に入りのCM曲を口ずさみ、ご機嫌だった。
樹の自転車の後ろに乗り、呟くと
「何か言った?」
樹が自転車を漕ぎながら聞いてきた。
「何でもありません」
私がため息混じりに答える。少しずつ樹離れするために自分の自転車に乗ってきたのに、これでは意味がない思った。
「変なの」
私の内心を知るはずもない樹が首を傾げた。
「菜穂、バイバイ」
クラスメートの子が二人で並んで歩きながら手を振る。
「バイバイ」
「樹くん今度デートしてねー!」
二人のうちの一人の子がそう叫ぶ声がしたが、自転車はもうその子の横を通り過ぎていた。だけど声は聞こえていたようで
「なんじゃそりゃ」
と前を見ながら、樹は笑っていた。
樹の制服の腰を掴み、樹の自転車は安全運転で走る。
樹の自転車の後ろは座っていると痛くなるし、断然ガタガタする。
でも落ち着いてしまったのは恐らく樹の大きな背中のせいだ、と思った。
朝の通学で自分の自転車に乗っていた時に、私は思ってしまっていたのだ。
今日初めて樹の後ろに乗った青山を見て、『いいなぁ、青山は』なんて。
私はいつも乗せてもらってるくせに。
だから今、落ち着いている。
でも早く……樹から離れなきゃ。
樹に分からないように。
樹といる時間は無言のままでも全然居心地がいい。けれど何か話しかけようと私は口を開く。
「今日歓迎会、大成功だったね」
樹の背中を見ながら声をかける。
「青山のせいで大変な目にあった」
樹はため息まじりに言った。
「本当だね。でも私は青山にお礼言ったけどね」
「お礼?」
「歓迎会、樹を選んでくれてありがとうって」
「……まじかよ、菜穂」
樹は前を見て、運転しながら笑っていた。
「今日は本当青山はひどかった。だから俺は後日、青山にお礼を貰う約束を取り付けた」
樹がぼやくように言って、私は少し笑ってしまった。
「お礼? そうだよね。貰ってもいいよね、あの無茶振りは。……何貰うの?」
「サボテン」
まさかのものに、私は一瞬黙り込む。
「それ、お礼になるの?」
「貰うんだ。石井さんの家にある、菜穂と同じもう一つの金鯱」
樹がさらっと言った。そういえば石井さんの家には、私の持って帰った金鯱の隣にそういえばもう一つ、同じ金鯱のサボテンがあったことをぼんやり思い出す。
「なんだ、樹も気に入ってたんじゃん」
「菜穂がサボテン貰ってはしゃいでたからさ、俺も欲しくなったの」
「……はしゃいではなくない?」
樹は笑っていた。そして話を続けた。
「菜穂も俺にお礼くれる?」
「え?」
「菜穂も俺に歓迎会やれって言ったでしょ? 俺頑張ったし、菜穂はお礼くれないの?」
唖然としたが私もやれって言ったし、納得はいかないけど、私は青山とちょっとした共犯者なのかもしれないと考える。
「……いいよ、何欲しいの?」
意を決して聞いてみた。
「じゃあ……俺の家でゲームでもやらない?」
「ゲーム?」
「カートレースで対決しよ!」
樹が無邪気に言い、私は拍子抜けした。カートレースは好きな車とコースを選び、その中でスピードを競うゲームだ。高価なものでも請求されるかと思ったが、意外と簡単なものだった。
このカートレースは過去に何度も樹の家でやったことがある。最後に遊んだのは、この学校に入学する前の三月の終わりだった。それ以来、樹の家には行っていなかったが、樹とゲームをするのは珍しいことではなかった。
「じゃあやろうか?」
そう言うと、樹は一瞬振り向いて
「うん」
と言って笑った。
「お礼って言うか、いつもと一緒だね」
「……それでいい」
樹は満足そうに頷いてからお気に入りのCM曲を口ずさみ、ご機嫌だった。