授業が終わると、樹がいつものように廊下側の自分の席から私を呼んだ。
「菜穂、帰るよ」
私はそれを聞き、頷く。
「じゃあね、小絵」
鞄を持ち、小絵に声をかけると
「いいなぁ、ニケツ」
小絵はちょっと頬を膨らまして言う。
「今日は自分の自転車だよ」
頬を膨らました小絵が可愛いなと思いながら笑って答えると、小絵は何故か眉を寄せた。
「何で?」
「何でって、自転車の二人乗りもうすぐ法律で禁止されるらしいからさ、今日から自分の自転車で慣れておこうかと……」
「何してるの、もったいないな」
「もったいないとは?」
「二村に甘えておけばいいのに」
小絵は私の顔を見て、少し笑みを浮かべた。
「小絵、どうしたの?」
小絵の笑顔はいつも通り。けどその時、私は何かに違和感を感じた。上手くは言えないけど、やはり小絵は寂しそうな気がした。
「菜穂ー」
「ほら、二村が呼んでるよ」
小絵が樹のほうを見ながらそう言った。違和感には少し気になったが、樹が呼ぶので行かなくてはならない。
「じゃあ小絵またね」
「またね」
小絵はいつものように私に手を振って、私は少し戸惑いながらも小絵に手を振り返した。
教室を出て、すぐ私は振り返る。
「どうしたの?」
樹は私に振り返り、立ち止まる。
「小絵の様子が違ってたかなって」
「何かあった?」
「元気がないとかじゃないけど、樹と私が一緒に帰る時にたまに寂しそうな顔をするんだ」
「……何で?」
「……何かを思い出してるような」
「思い出してる?」
樹が考え始めたので、私ははっとする。
「変なこと言ってごめん、行こう?」
私は樹の背中を押した。
樹は少しきょとんとしながらも頷いて歩き出す。
自転車置き場まで辿り着くと、私は鞄から鍵を取りだし差し込んで、自分の自転車を動かした時、
「あれ?」
と違和感に気づく。さらに慎重にゆっくりと自転車を動かしてみる。
「どうした?」
先に自分の自転車に乗った樹は、振り返って私を見る。
自転車はスムーズに動かない。タイヤの空気が抜けているようでガタガタする。
「朝は動いてたのに、パンクしてる」
「全然乗らないからガタがきてたのかな?」
樹は自転車に乗ったまま足でゆっくりとバックして、私の自転車を見た。
「ね、運悪いかも」
私は自転車を元の位置に止めて鍵をかける。かけてからため息をついて、ということは……と考え、はっとして樹を見る。
「菜穂、後ろ乗りな?」
私は固まった。