無数の刃が降り注ぐ。風は嵐の様に強く打ちつける。巨大な氷の柱が、全てを貫かんと襲い来る。雷鳴が轟き、数多の雷が走る。炎は巨大な渦となり、あらゆる物を焼き尽くそうとした。
極めつけは、国一つを一夜で滅ぼした超爆発。数万キロを荒野にした一撃の威力は、如何なる地球の現代兵器でも叶うまい。
妄想を具現化する魔法があるロイスマリアにおいて、机上の空論は現実となる。高い知能とマナを有するエルフは、どの種族よりも群を抜いて強かった。
管理者たれ。
いつしか、驕った考えを持つ様になったエルフ達は忘れていた。この世界には、自分達よりも強い生物が居る事を。
原初の生物にして、地上の守護を神より託された存在、エンシェントドラゴン。その一翼であるミューモが、エルフ達の前に立ち塞がっていた。
ミューモは、あらゆる魔法を無効化した。それは絶対防御の盾。ミューモの覚悟でもあった。冬也に誓い己の魂に刻んだ約束は、いま果たされようとしていた。
己にむけた計り知れない殺意を持った相手であろうとも。誰であろうと救う、その覚悟がミューモを突き動かす。
ミューモは、ひたすら耐えた。そして、どんな魔法でも防いで見せた。数時間が数日になろうとも、どれだけの時間が掛かろうとも、いずれ時は来る。その為に耐えていた。
エルフ達を釘付けにする。それは未だ止まぬ、アンドロケイン各地で起こる戦乱を拡大させない、最良手段であった。
己の眷属が今なお抗っている。エレナは、ミノタウロス達をまとめ始めたばかり。彼らの足掻きを、決して無駄にはしない。
耐え続けるミューモ、止まらないエルフ達。両者は一歩も引かなった。
何故エルフは、そこまで力を誇示しようとするのか。かつて、神の先兵として戦って来たミューモには、その気持ちが理解出来た。
力が有れば使いたくなる。しかし、理性的な存在で有れば有るほど、力を行使する為には理由が必要となる。『正義』と言う名の絶対的な理由が。
ミューモの場合は、神の命であった。だがエルフ達は溺れたのだろう。その強さに酔いしれたのだろう。
故に驕ったのだろう。
「この世界には、管理者も裁定者も要らない。互いが互いを認め合う世界、それが有るべき姿だ! 貴様ら如き驕った屑共に、俺の盾は壊せない! 世界はこれ以上の死を望んでいない!」
爆発の轟音すらもかき消す様に、ミューモは怒声を上げた。
言葉で説得が出来るなら、エルフ達は既に攻撃を止めていたはず。しかし、ミューモは怒鳴らずにはいられなかった。
彼らは知らないのだ、行動の先に何が待ち受けているのか。戦いによって生まれた狂気や悪意が、何を生み出すのか。
知恵者が聞いて呆れる。
ミューモはエルフ達に、かつての無知な自分を重ねていた。
何も考えずに破壊と殺戮を繰り返す事が、本当に正しい事なのか。違うはずだ。世界とそこに生きる者達は、もっと優しくなくてはならないのだ。
攻撃の手を緩めないエルフ達、説得をしながらも耐え続けるミューモ。時と共にエルフ達の魔法は激化する。
ふとした瞬間であった。ミューモは世界が揺らぐのを感じた。防御に集中していたミューモは、その揺らぎを気に留めなかった。
だが揺らぎと共に、ミューモの待っていた時が訪れる。ミューモの下に心強い味方が現れる。
均衡は今、完全に破られようとしていた。
「まるで理性の有る狂気じゃのう」
戦いに集中していたミューモは、スールの到来に気が付いていなかった。はっと首を捻った時には、隣にはスールの存在が有った。
いずれ来る、そう思いつつ耐えていたミューモにとって、これ以上も無い援軍だった。それだけでは無い、予想を超えた朗報が届けられる。
「スール! ラフィスフィアはどうしたのだ?」
「それは問題ない。わからんか? 主とペスカ様が戻られた。神々もだ。よく頑張ったなミューモ」
スールの言葉で、ミューモの中には安堵、はたまた歓喜の様な、入り乱れた感情が込み上げる。
「そうか、冬也様が……」
想いが溢れ、言葉が続かなかった。そしてミューモは、判然としない想いを噛みしめていた。スールには、ミューモの想いが痛い程に理解が出来た。何よりも敬愛する主の帰還は、これまでに無いほどの喜びであった。
あの日、無残に転がった死体。その光景をスールは一生忘れないだろう。
どれだけ悔しかったか、どれだけ悲しかったか。それでも、これが終わりではないと、自分に鞭を打ち続けて来た。
それはミューモも同様である。そしてエレナとブルも、同じ思いを抱えて耐え抜いてきたのだ。
挫けたくなる程に現実は残酷だった。神が消え恩恵が失われ、世界が崩壊していく。それを止める事など出来るはずも無い。それでも主の意思を継ぐ為、懸命に抗った。
世界は飢餓に満ちている。世界は悪意に染まりつつある。そして、終焉が目の前に迫っている。
それでも希望はあると鼓舞し続けた。再び冬也との繋がりを感じた時は、自然と涙が溢れた。胸が詰まり言葉にならなかった。
感慨に耽る気持ちはわかる、だが今はまだ……。スールは静かに口を開いた。
「ミューモ。お主が盾なら、儂は鉾になろう」
ただ足止めするだけではない。ここで、エルフ達を沈静化させる。既に結界内は、エルフ達の悪意が満ち始め、禍々しい瘴気に変わろうとしている。一刻の猶予も無いのは事実であった。
スールは自らの神気を体内で活性化させ、ブレスの様に放つ。神気のブレスはエルフ達に向かい、黒い霞を消し飛ばした。
だが、スールのブレス一吹きで沈静化する程、エルフ達は大人しくない。直ぐに結界内は、黒い霞で満たされる。
飽和状態にでもあるのか、エルフ達は狂気の眼差しを向ける。次々と放たれる魔法は、ミューモの結界に阻まれ届く事が無い。それが、エルフ達の怒りを増加させていた。
浄化。
今まで壊す事しかしてこなかったミューモには、無い感覚である。しかしミューモは、スールの見よう見まねで、体内のマナを極限まで高めていった。
神気でのみしか出来ない事があるのか? 否、マナでも行使出来るはず。神気とマナは、単に力の強さではないか。スールに出来て、自分に出来ない事が有ってたまるか。
「俺は、世界の守護者! 貴様ら全てをこれから救ってやる!」
エンシェントドラゴンの膨大なマナが凝縮していく。数万のエルフを揃えても、届く事の無い圧倒的な差。それだけのマナがミューモの体内を循環する。
ミューモの体が光り輝く。眩い光と共に、ミューモは結界にマナを注ぎ込んだ。
「見ろエルフ共! これが力の使い方だ!」
ミューモの結界は、瞬く間に内部の淀みを消していく。浄化の力が威力を発揮していた。
「スール、今だ!」
ミューモの掛け声で、スールは再び神気のブレスを吐く。スールのブレスは、結界を抜けてエルフ達を覆い尽くす。それは、単に意識を奪うだけの力を籠めたブレス。
そのブレスを受けたエルフ達は、次々と意識を失い倒れていった。
結界のせいで逃げる事が出来ないエルフ達。そして結界に働く沈静効果のせいで、戦意を喪失していく。
更に、次々と倒れる仲間のせいで、結界内でも身動きが取れなくなっていく。全てのエルフが倒れるまで、スールのブレスは止まらなかった。
「終わったか」
「一先ずは、かの」
エルフの鎮圧が完了したミューモとスールは、共に視線を交わし少し息をついた。
「エルフ達は拘束し、裁定は冬也様達にお任せする。それで良いなスール?」
「勿論だミューモ。拘束は儂に任せろ。その手の魔法は得意なのじゃ」
そう言うと、スールは巧みにエルフ達の腕や足を魔法で縛る。無論、自傷行為も出来ない様に、口には枷を仕込んだ。
神気の拘束である、例えエルフが集団で拘束を解こうとしても、力の差でびくともしないだろう。
アンドロケイン大陸で、最大の脅威であったエルフ達の鎮圧が終了した。それは、平和への大きな一歩になった事は間違いない。
そしてその裏側では、ペスカと冬也がエルラフィア王国へと辿り着こうとしていた。
極めつけは、国一つを一夜で滅ぼした超爆発。数万キロを荒野にした一撃の威力は、如何なる地球の現代兵器でも叶うまい。
妄想を具現化する魔法があるロイスマリアにおいて、机上の空論は現実となる。高い知能とマナを有するエルフは、どの種族よりも群を抜いて強かった。
管理者たれ。
いつしか、驕った考えを持つ様になったエルフ達は忘れていた。この世界には、自分達よりも強い生物が居る事を。
原初の生物にして、地上の守護を神より託された存在、エンシェントドラゴン。その一翼であるミューモが、エルフ達の前に立ち塞がっていた。
ミューモは、あらゆる魔法を無効化した。それは絶対防御の盾。ミューモの覚悟でもあった。冬也に誓い己の魂に刻んだ約束は、いま果たされようとしていた。
己にむけた計り知れない殺意を持った相手であろうとも。誰であろうと救う、その覚悟がミューモを突き動かす。
ミューモは、ひたすら耐えた。そして、どんな魔法でも防いで見せた。数時間が数日になろうとも、どれだけの時間が掛かろうとも、いずれ時は来る。その為に耐えていた。
エルフ達を釘付けにする。それは未だ止まぬ、アンドロケイン各地で起こる戦乱を拡大させない、最良手段であった。
己の眷属が今なお抗っている。エレナは、ミノタウロス達をまとめ始めたばかり。彼らの足掻きを、決して無駄にはしない。
耐え続けるミューモ、止まらないエルフ達。両者は一歩も引かなった。
何故エルフは、そこまで力を誇示しようとするのか。かつて、神の先兵として戦って来たミューモには、その気持ちが理解出来た。
力が有れば使いたくなる。しかし、理性的な存在で有れば有るほど、力を行使する為には理由が必要となる。『正義』と言う名の絶対的な理由が。
ミューモの場合は、神の命であった。だがエルフ達は溺れたのだろう。その強さに酔いしれたのだろう。
故に驕ったのだろう。
「この世界には、管理者も裁定者も要らない。互いが互いを認め合う世界、それが有るべき姿だ! 貴様ら如き驕った屑共に、俺の盾は壊せない! 世界はこれ以上の死を望んでいない!」
爆発の轟音すらもかき消す様に、ミューモは怒声を上げた。
言葉で説得が出来るなら、エルフ達は既に攻撃を止めていたはず。しかし、ミューモは怒鳴らずにはいられなかった。
彼らは知らないのだ、行動の先に何が待ち受けているのか。戦いによって生まれた狂気や悪意が、何を生み出すのか。
知恵者が聞いて呆れる。
ミューモはエルフ達に、かつての無知な自分を重ねていた。
何も考えずに破壊と殺戮を繰り返す事が、本当に正しい事なのか。違うはずだ。世界とそこに生きる者達は、もっと優しくなくてはならないのだ。
攻撃の手を緩めないエルフ達、説得をしながらも耐え続けるミューモ。時と共にエルフ達の魔法は激化する。
ふとした瞬間であった。ミューモは世界が揺らぐのを感じた。防御に集中していたミューモは、その揺らぎを気に留めなかった。
だが揺らぎと共に、ミューモの待っていた時が訪れる。ミューモの下に心強い味方が現れる。
均衡は今、完全に破られようとしていた。
「まるで理性の有る狂気じゃのう」
戦いに集中していたミューモは、スールの到来に気が付いていなかった。はっと首を捻った時には、隣にはスールの存在が有った。
いずれ来る、そう思いつつ耐えていたミューモにとって、これ以上も無い援軍だった。それだけでは無い、予想を超えた朗報が届けられる。
「スール! ラフィスフィアはどうしたのだ?」
「それは問題ない。わからんか? 主とペスカ様が戻られた。神々もだ。よく頑張ったなミューモ」
スールの言葉で、ミューモの中には安堵、はたまた歓喜の様な、入り乱れた感情が込み上げる。
「そうか、冬也様が……」
想いが溢れ、言葉が続かなかった。そしてミューモは、判然としない想いを噛みしめていた。スールには、ミューモの想いが痛い程に理解が出来た。何よりも敬愛する主の帰還は、これまでに無いほどの喜びであった。
あの日、無残に転がった死体。その光景をスールは一生忘れないだろう。
どれだけ悔しかったか、どれだけ悲しかったか。それでも、これが終わりではないと、自分に鞭を打ち続けて来た。
それはミューモも同様である。そしてエレナとブルも、同じ思いを抱えて耐え抜いてきたのだ。
挫けたくなる程に現実は残酷だった。神が消え恩恵が失われ、世界が崩壊していく。それを止める事など出来るはずも無い。それでも主の意思を継ぐ為、懸命に抗った。
世界は飢餓に満ちている。世界は悪意に染まりつつある。そして、終焉が目の前に迫っている。
それでも希望はあると鼓舞し続けた。再び冬也との繋がりを感じた時は、自然と涙が溢れた。胸が詰まり言葉にならなかった。
感慨に耽る気持ちはわかる、だが今はまだ……。スールは静かに口を開いた。
「ミューモ。お主が盾なら、儂は鉾になろう」
ただ足止めするだけではない。ここで、エルフ達を沈静化させる。既に結界内は、エルフ達の悪意が満ち始め、禍々しい瘴気に変わろうとしている。一刻の猶予も無いのは事実であった。
スールは自らの神気を体内で活性化させ、ブレスの様に放つ。神気のブレスはエルフ達に向かい、黒い霞を消し飛ばした。
だが、スールのブレス一吹きで沈静化する程、エルフ達は大人しくない。直ぐに結界内は、黒い霞で満たされる。
飽和状態にでもあるのか、エルフ達は狂気の眼差しを向ける。次々と放たれる魔法は、ミューモの結界に阻まれ届く事が無い。それが、エルフ達の怒りを増加させていた。
浄化。
今まで壊す事しかしてこなかったミューモには、無い感覚である。しかしミューモは、スールの見よう見まねで、体内のマナを極限まで高めていった。
神気でのみしか出来ない事があるのか? 否、マナでも行使出来るはず。神気とマナは、単に力の強さではないか。スールに出来て、自分に出来ない事が有ってたまるか。
「俺は、世界の守護者! 貴様ら全てをこれから救ってやる!」
エンシェントドラゴンの膨大なマナが凝縮していく。数万のエルフを揃えても、届く事の無い圧倒的な差。それだけのマナがミューモの体内を循環する。
ミューモの体が光り輝く。眩い光と共に、ミューモは結界にマナを注ぎ込んだ。
「見ろエルフ共! これが力の使い方だ!」
ミューモの結界は、瞬く間に内部の淀みを消していく。浄化の力が威力を発揮していた。
「スール、今だ!」
ミューモの掛け声で、スールは再び神気のブレスを吐く。スールのブレスは、結界を抜けてエルフ達を覆い尽くす。それは、単に意識を奪うだけの力を籠めたブレス。
そのブレスを受けたエルフ達は、次々と意識を失い倒れていった。
結界のせいで逃げる事が出来ないエルフ達。そして結界に働く沈静効果のせいで、戦意を喪失していく。
更に、次々と倒れる仲間のせいで、結界内でも身動きが取れなくなっていく。全てのエルフが倒れるまで、スールのブレスは止まらなかった。
「終わったか」
「一先ずは、かの」
エルフの鎮圧が完了したミューモとスールは、共に視線を交わし少し息をついた。
「エルフ達は拘束し、裁定は冬也様達にお任せする。それで良いなスール?」
「勿論だミューモ。拘束は儂に任せろ。その手の魔法は得意なのじゃ」
そう言うと、スールは巧みにエルフ達の腕や足を魔法で縛る。無論、自傷行為も出来ない様に、口には枷を仕込んだ。
神気の拘束である、例えエルフが集団で拘束を解こうとしても、力の差でびくともしないだろう。
アンドロケイン大陸で、最大の脅威であったエルフ達の鎮圧が終了した。それは、平和への大きな一歩になった事は間違いない。
そしてその裏側では、ペスカと冬也がエルラフィア王国へと辿り着こうとしていた。