大陸東部の中心へ向かうペスカ達とは別に、戦いは激化していた。
山の神は、北側の海岸沿いでモンスターを倒し続ける。クロノスは、東側の海岸沿いでモンスターに囲まれていた。
問題は大陸だけではない。汚された海からも、モンスターが発生し始める。周辺海域もまた、邪神の領域になりつつあった。
南側は、風の女神と土地神の集団が、大陸南部にはモンスターを出さない様に、壁の様に並びモンスター侵出を阻んでいた。
西側は、水の女神が土地神を率いて、同様にモンスターの侵出を阻む。
しかし、水の女神が率いる神々の集団は、風の女神達よりも数が少なく、カバー出来る範囲も限られる。水の女神達が守る範囲から漏れ出た間から、ダムが放流を行う様に、モンスターが流れていく。
その溢れたモンスターに対峙していたのは、魔獣軍団であった。浄化魔法を吸収して、より強力になったモンスターを討伐する。それは、神に比べて遥かに力の弱い魔獣達には、至難の業であった。
それでも、戦うと決めた。
大陸を仲間を守る、そんな意思の下で魔獣軍団は抗い続けた。しかし、倒しても減る気配の無い戦いは、魔獣軍団の首をじわじわと締め上げる。特に前線で戦う四大魔獣の働きは、顕著であった。
エンシェントドラゴンや眷属ドラゴン達が、多少なりとも数を減らしている。それでも、凄まじい勢いで攻勢をかけるモンスター達を、前線で受け止めるのは並大抵の事ではない。
大陸で随一の巨体を誇るベヒモスは、その体で壁となる。
どれだけ傷がついても、揺るがない壁。そして広範囲の魔法を放ち、前方のモンスターに攻撃を続ける。
しかし、傷は増え続けおびただしい血が流れる。それはベヒモスの体力を著しく奪う。
広範囲の魔法を連続して使ったベヒモスは、マナの枯渇も早い。
酷い傷とマナの枯渇、やがてベヒモスは膝をつく。蹲るだけでも、小高い山の様なベヒモスの体躯。「例えこのまま死しても、足止めになるなら」と、ベヒモスはその場を動かずにただじっと耐えた。
ベヒモスの体に守られながら、フェンリルとグリフォンは鋭い爪を振るっていた。
ベヒモスが己を犠牲にしても守ろうとした覚悟を、痛いほどに感じていたフェンリルとグリフォンは、慟哭にも似た咆哮を上げて爪を振るう。
ヒュドラは、自身の生命力を削る様に、全力以上のブレスを放った。
ベヒモスが膝を突いた時点で、前線が瓦解するのはわかっていた。ミューモとノーヴェは、全軍の撤退を命じる。
しかし、誰も撤退の命令に従う者はいなかった。
「早く撤退だ! このままでは全滅するぞ! フェンリル、グリフォン、ヒュドラ。お前らでベヒモスを支えて逃げろ。時間は俺が稼ぐ」
ミューモの怒声に、決して首を縦に振らない四大魔獣。そして、倒れて意識が朦朧としていたベヒモスが静かに口を開く。
「駄目だミューモ。我らは誇り高きドラグスメリアの魔獣。敵に背を向ける位なら死を選ぶ! それに、我らはあなたに牙を剥いた。これは償いだ」
「何を言っているベヒモス! 馬鹿を言うな! お前らを死なせるわけにはいかんのだ!」
ベヒモスを説得しようと、声を荒げるミューモ。しかし、ベヒモスは頑として首を縦に振らない。そして、フェンリル、グリフォン、ヒュドラがそれぞれの決意を口にする。
「くどいぞミューモ! 我らの誇りを踏みにじるな! 我らは禁忌を犯した身。その償いはここで果たす!」
「元より捨てた命、最後は仲間の為に使えるなら本望だ!」
「頼むミューモ。最後まで戦わせてくれ! あのお二方や女神様方は、今も戦っておられるのだろう? 何故、我らが引かねばならぬ。頼むミューモ、この命が尽きるまで仲間を守らせてくれ!」
力が及ばない状況で、ミューモの内には忸怩たる思いが満ちていた。
ここでも失うのか。なぜ、こんなにも高潔な奴らが命を落とさねばならない。冬也に言われた通り、これでは自分は足手纏いのままだ。
ミューモは激しく咆哮する。
「くそぉぉぉぉぉぉぉ! ぐあぁぁぁぁぁぁ!」
ミューモは、ベヒモス達の気持ちが痛い程に理解出来た。操られて大地を穢した。ベヒモス達が決して望まぬ事を、邪悪はさせたのだ。そして、自分はそれを止める事が出来なかった。
悔いる必要は無い。だけど、悔恨の想いが彼らの心を縛る。だからといって、命を賭ける必要が何処にある。
禁忌を犯す、罪を償う、馬鹿な事を考えるな。償いなら俺がする。その為に必要な事は、何でもやる。
お前達が仲間を守ろうとするのと同じ。俺は、お前達を失いたくない。落として良い命など、これっぽっちも無い。
「ミューモ、誰も死なせんよ」
「我らの命はペスカ様と冬也様に託した。しかしお二方の意思は、命を捨てろなんて生易しいものではない」
咆哮を上げるミューモに声をかけたのは、テュホンとユミル。そして、巨人族のリーダーである二体が、巨人達を連れて最前線へ出た。
魔攻砲を放ち続け、あっという間にマナが枯渇し始めた巨人達は、一部の巨人を除き魔攻砲を撃てなくなっていた。
テュホンはサイクロプス達に、ベヒモスの治療に取り掛狩る様に指示をする。ベヒモスの背後で、サイクロプスの集団が僅かに残ったマナを振り絞り、治療魔法をかける。
マナが枯渇した巨人達にとって、魔攻砲は鉄の筒となり果てる。それでも巨大な鉄の武器だ。テュホンとユミルそれにアルゴスが魔攻砲を振り回して、モンスターを倒す。
魔獣軍団の前線では、乱戦状態になっていた。
四大魔獣と巨人達が入り乱れて戦う中、ミューモはこれまで以上に、激しいブレスを吐く。触発される様にノーヴェや眷属ドラゴンが、限界を超えようと力を行使し続けた。
そこまでしても、モンスターの数を減らす事が出来ない。
最前線で炎の剣レーヴァテインを振るっていたスルトが、深い傷を受けて膝を突く。それでも、スルトは襲いかかるモンスターを切り飛ばす。
しかし、限界は訪れる。いや、限界はとっくに訪れていた。スルトは、最前線で武器を構えたまま、意識を失った。
複数の目を持つアルゴスでも、腕は二本しかない。全方位を囲まれて攻撃を受ければ、耐えきる事は出来ない。
激しいモンスターの攻撃を受け続けて、倒れて意識を失う。
四大魔獣が止められないモンスターを、力の劣る巨人達が止められるはずがない。スルト、アルゴスに続いて、巨人の守護者アトラスが倒れる。
前線が崩れ始める。
均衡はモンスター側の優勢に傾き、凶悪なモンスター達が魔獣達を更に苦しめる。テュホンとユミルは、手分けをして倒れた巨人達を、ベヒモスの背後に隠す。
しかし、この戦場で安全な場所は、どこにもない。テュホンとユミルは懸命に、治療を続けるサイクロプスや、倒れた巨人達を守る。
誰もが全力だった。誰もが命がけだった。それでも届かないものがあった。
やがてフェンリルが倒れ、グリフォンが血を吐き、ヒュドラが意識を失う。魔の手は巨人達にも迫る。テュホンは膨大な血を流し、ユミルは四肢を失う。
サイクロプス達は、一体、また一体とモンスターの前に、倒れていった。
ミューモやノーヴェのブレスでも、支えきれない。魔獣軍団の前線は、完全に瓦解した。
山の神は、北側の海岸沿いでモンスターを倒し続ける。クロノスは、東側の海岸沿いでモンスターに囲まれていた。
問題は大陸だけではない。汚された海からも、モンスターが発生し始める。周辺海域もまた、邪神の領域になりつつあった。
南側は、風の女神と土地神の集団が、大陸南部にはモンスターを出さない様に、壁の様に並びモンスター侵出を阻んでいた。
西側は、水の女神が土地神を率いて、同様にモンスターの侵出を阻む。
しかし、水の女神が率いる神々の集団は、風の女神達よりも数が少なく、カバー出来る範囲も限られる。水の女神達が守る範囲から漏れ出た間から、ダムが放流を行う様に、モンスターが流れていく。
その溢れたモンスターに対峙していたのは、魔獣軍団であった。浄化魔法を吸収して、より強力になったモンスターを討伐する。それは、神に比べて遥かに力の弱い魔獣達には、至難の業であった。
それでも、戦うと決めた。
大陸を仲間を守る、そんな意思の下で魔獣軍団は抗い続けた。しかし、倒しても減る気配の無い戦いは、魔獣軍団の首をじわじわと締め上げる。特に前線で戦う四大魔獣の働きは、顕著であった。
エンシェントドラゴンや眷属ドラゴン達が、多少なりとも数を減らしている。それでも、凄まじい勢いで攻勢をかけるモンスター達を、前線で受け止めるのは並大抵の事ではない。
大陸で随一の巨体を誇るベヒモスは、その体で壁となる。
どれだけ傷がついても、揺るがない壁。そして広範囲の魔法を放ち、前方のモンスターに攻撃を続ける。
しかし、傷は増え続けおびただしい血が流れる。それはベヒモスの体力を著しく奪う。
広範囲の魔法を連続して使ったベヒモスは、マナの枯渇も早い。
酷い傷とマナの枯渇、やがてベヒモスは膝をつく。蹲るだけでも、小高い山の様なベヒモスの体躯。「例えこのまま死しても、足止めになるなら」と、ベヒモスはその場を動かずにただじっと耐えた。
ベヒモスの体に守られながら、フェンリルとグリフォンは鋭い爪を振るっていた。
ベヒモスが己を犠牲にしても守ろうとした覚悟を、痛いほどに感じていたフェンリルとグリフォンは、慟哭にも似た咆哮を上げて爪を振るう。
ヒュドラは、自身の生命力を削る様に、全力以上のブレスを放った。
ベヒモスが膝を突いた時点で、前線が瓦解するのはわかっていた。ミューモとノーヴェは、全軍の撤退を命じる。
しかし、誰も撤退の命令に従う者はいなかった。
「早く撤退だ! このままでは全滅するぞ! フェンリル、グリフォン、ヒュドラ。お前らでベヒモスを支えて逃げろ。時間は俺が稼ぐ」
ミューモの怒声に、決して首を縦に振らない四大魔獣。そして、倒れて意識が朦朧としていたベヒモスが静かに口を開く。
「駄目だミューモ。我らは誇り高きドラグスメリアの魔獣。敵に背を向ける位なら死を選ぶ! それに、我らはあなたに牙を剥いた。これは償いだ」
「何を言っているベヒモス! 馬鹿を言うな! お前らを死なせるわけにはいかんのだ!」
ベヒモスを説得しようと、声を荒げるミューモ。しかし、ベヒモスは頑として首を縦に振らない。そして、フェンリル、グリフォン、ヒュドラがそれぞれの決意を口にする。
「くどいぞミューモ! 我らの誇りを踏みにじるな! 我らは禁忌を犯した身。その償いはここで果たす!」
「元より捨てた命、最後は仲間の為に使えるなら本望だ!」
「頼むミューモ。最後まで戦わせてくれ! あのお二方や女神様方は、今も戦っておられるのだろう? 何故、我らが引かねばならぬ。頼むミューモ、この命が尽きるまで仲間を守らせてくれ!」
力が及ばない状況で、ミューモの内には忸怩たる思いが満ちていた。
ここでも失うのか。なぜ、こんなにも高潔な奴らが命を落とさねばならない。冬也に言われた通り、これでは自分は足手纏いのままだ。
ミューモは激しく咆哮する。
「くそぉぉぉぉぉぉぉ! ぐあぁぁぁぁぁぁ!」
ミューモは、ベヒモス達の気持ちが痛い程に理解出来た。操られて大地を穢した。ベヒモス達が決して望まぬ事を、邪悪はさせたのだ。そして、自分はそれを止める事が出来なかった。
悔いる必要は無い。だけど、悔恨の想いが彼らの心を縛る。だからといって、命を賭ける必要が何処にある。
禁忌を犯す、罪を償う、馬鹿な事を考えるな。償いなら俺がする。その為に必要な事は、何でもやる。
お前達が仲間を守ろうとするのと同じ。俺は、お前達を失いたくない。落として良い命など、これっぽっちも無い。
「ミューモ、誰も死なせんよ」
「我らの命はペスカ様と冬也様に託した。しかしお二方の意思は、命を捨てろなんて生易しいものではない」
咆哮を上げるミューモに声をかけたのは、テュホンとユミル。そして、巨人族のリーダーである二体が、巨人達を連れて最前線へ出た。
魔攻砲を放ち続け、あっという間にマナが枯渇し始めた巨人達は、一部の巨人を除き魔攻砲を撃てなくなっていた。
テュホンはサイクロプス達に、ベヒモスの治療に取り掛狩る様に指示をする。ベヒモスの背後で、サイクロプスの集団が僅かに残ったマナを振り絞り、治療魔法をかける。
マナが枯渇した巨人達にとって、魔攻砲は鉄の筒となり果てる。それでも巨大な鉄の武器だ。テュホンとユミルそれにアルゴスが魔攻砲を振り回して、モンスターを倒す。
魔獣軍団の前線では、乱戦状態になっていた。
四大魔獣と巨人達が入り乱れて戦う中、ミューモはこれまで以上に、激しいブレスを吐く。触発される様にノーヴェや眷属ドラゴンが、限界を超えようと力を行使し続けた。
そこまでしても、モンスターの数を減らす事が出来ない。
最前線で炎の剣レーヴァテインを振るっていたスルトが、深い傷を受けて膝を突く。それでも、スルトは襲いかかるモンスターを切り飛ばす。
しかし、限界は訪れる。いや、限界はとっくに訪れていた。スルトは、最前線で武器を構えたまま、意識を失った。
複数の目を持つアルゴスでも、腕は二本しかない。全方位を囲まれて攻撃を受ければ、耐えきる事は出来ない。
激しいモンスターの攻撃を受け続けて、倒れて意識を失う。
四大魔獣が止められないモンスターを、力の劣る巨人達が止められるはずがない。スルト、アルゴスに続いて、巨人の守護者アトラスが倒れる。
前線が崩れ始める。
均衡はモンスター側の優勢に傾き、凶悪なモンスター達が魔獣達を更に苦しめる。テュホンとユミルは、手分けをして倒れた巨人達を、ベヒモスの背後に隠す。
しかし、この戦場で安全な場所は、どこにもない。テュホンとユミルは懸命に、治療を続けるサイクロプスや、倒れた巨人達を守る。
誰もが全力だった。誰もが命がけだった。それでも届かないものがあった。
やがてフェンリルが倒れ、グリフォンが血を吐き、ヒュドラが意識を失う。魔の手は巨人達にも迫る。テュホンは膨大な血を流し、ユミルは四肢を失う。
サイクロプス達は、一体、また一体とモンスターの前に、倒れていった。
ミューモやノーヴェのブレスでも、支えきれない。魔獣軍団の前線は、完全に瓦解した。