一方、ゴブリンの集落では、その日の訓練を終えてヘトヘトになったゴブリン達が、広場に揃って夕食を取っていた。
数は少ないが、自らの手で獲った獲物が含まれる。ゴブリン達にとって、生きた獲物を獲った事は、今までに無い経験であり、小さな達成感を得ていた。
同時に力不足もゴブリン達は感じていた。
いつかは与えられるのではなく、自らの力で充分な食料を獲りたい。
歯噛みをする思いを感じながら、ゴブリン達は食事をする。過酷な訓練を乗り越える中で、ゴブリン達は与えられた現状を享受せず、自ら掴み取る事を重要視する様に思考を変えていった。
食事が終わると、ゴブリン達はズマを中心に反省会を始める。
どうすれば、訓練を乗り越え強くなれる。何が足りない、なぜ獲物を逃した。次は、どう工夫すれば良い。
直ぐに強くなるとは思っていない。だが、少しでも目標に近づいていたい。
日々の反省会は、エレナに言われる事なく、ズマが言い出し始めた事であった。反省会には、いつもエレナが立ち会っている。だが、今日の反省会には、ペスカも立ち会っていた。
中央の広間に集まるゴブリン達に向かって、ペスカは語り始める。
「はっきり言うよ。これ以上やっても、直ぐには強くなれない。私達人間が、ドラゴンと力比べをしても、腕力だけじゃ絶対に敵わないのと同じ。それは種族の差なんだよ。種族の限界を超えられないとは言わないよ。でも直ぐに出来る事じゃない。凄く長い時間をかけて修行して、やっと超えられるんだ。直ぐには、強くなれないよ」
ペスカの言葉は、これ以上も無い位に辛らつであった。
ゴブリンは所詮ゴブリン。エレナから受けた特訓が無駄とは言わない。でも、その壁を超えるには、長い時間が必要になる。そう、一朝一夕で成し遂げられる事ではない。それを理解しているから、心に響くのだろう。
力不足は、いつも感じている。
走れば、教官であるエレナに、ついていけない。戦闘では、掠る事すら許されない。体力面でも、いつも先にダウンするのは、ゴブリン達である。
だが、今更なのだ。知っている、力不足を理解している、だから必要な事を模索しているのだ。
ペスカの言葉がどれだけ辛らつであろうと、ゴブリン達は俯かない。
事実を正確に受け止め、次に進むための糧とする。成長を始めたゴブリン達は、あらゆる事を吸収している。
だからこそ、ペスカは手を差し伸べるべきだと感じていた。一歩先に進みたい、彼らがそう思うなら尚更なのだ。
エレナの行っているのは、基礎訓練に過ぎない。それで多少強くなったとしても、戦いの場では役に立たない。
それならば、本当の戦いを見せてやればいい。か弱い人の子が、身体能力に優れたキャットピープルに勝つ所を。
「本気かニャ?」
「当たり前でしょ! それとも、エレナは出来ないの?」
「放出系と回復系は苦手ニャ。でも肉体の強化は得意ニャ。馬鹿にしちゃ駄目ニャ」
「それが出来れば充分よ」
「ペスカは、甘く見過ぎニャ。これでも私は、キャトロールで最強ニャ」
「本気でやらないと、怪我するよ」
「それは、こっちの台詞ニャ!」
ペスカは半身を傾ける様に、右手と右足を前に出して構える。対してエレナは構えず、リラックスする様に、体を上下に揺らしている。
開始の合図は無く、互いのタイミングで勝負が始まる。
エレナが僅かにジャンプをし着地した瞬間に、突き出した拳はペスカの眼前にあった。ペスカは動揺する事無く左手で突きを捌くと、右の拳でエレナの鳩尾を打ち抜いた。
一瞬の攻防は、ゴブリン達には見えていない。しかし、痛みで顔を歪めるエレナの姿だけは、しっかりと捉える事が出来た。
エレナは直ぐに距離を取り、攻撃姿勢を取る。だが間髪入れずに、ペスカの回し蹴りがエレナの左側頭部に迫る。
エレナは両手で蹴りをガードする。しかし、蹴りの勢いを殺す事は出来ずに、やや後方に飛ばされる。そして飛ばされた際に、エレナのガードが少し緩む。
ペスカは更に回転して、エレナに蹴りを打ち込む。狙うのは、防御が緩んだ胴。ペスカの蹴りは、エレナの左わき腹を軋ませる。
エレナは大きく飛ばされて、ゴロゴロと転がった。
直ぐに立ち上がるエレナの眼前には、ペスカの拳が有る。ペスカの勝利である。しかし、ズマは一連の攻防が不思議でならなかった。
なぜそんなに早く動けるのか。それは、人間とキャットピープルだけに許された技術なのか。ゴブリンには不可能なのか。
考え込む様にし、ズマは眉間に皺を寄せる。その様子を見ていたペスカは、徐に口を開いた。
「ズマ、これは魔法なんだよ」
「魔法ですか?」
「私とエレナは、身体強化って魔法を使ったの。だから、あんなに早く動けたの。あんた達ゴブリンも、出来る様になるよ」
「本当ですか、ペスカ殿」
「嘘は言ってないよ。だってエレナは、常時マナで肉体の強化してるよ。多分、当たり前になって気が付いてないだろうけど」
「そう言われれば、確かにニャ」
「だから私達は、種族の限界を遥かに超えて、飛んだり跳ねたりしてるの」
「そんな絡繰りがあったとは。ぜひ、我らにもお教えください」
「まぁ、最初はマナのコントロールからだね。それから治療魔法を覚えて貰うよ。治療魔法はエレナも一緒に修行しなよ。後々役に立つと思うからさ」
ペスカは本来、近接戦闘を得意としていない。ゴブリンを治療している所を見て、エレナは漠然とそう理解していた。それにも関わらず、圧倒された。理由はわかっている、マナの差だ。ペスカの場合は、既に神気と化しているのだが。
エレナもまた、己の未熟を理解した。上には上がいるのだと。そしてこの一戦が、エレナにとって転機となる。
そもそもペスカは、ゴブリン達を対トロール戦で使い捨てにする気は毛頭ない。この大陸でも通用する、立派な戦力に育てようと考えていた。
それには自立する事は勿論、戦いの技術だけでも足りない。ゴブリンを始め多くの魔獣達は、傷付いても薬草を患部に貼り、自然治癒を待つ程度の医療技術しか無い。それでは幾ら鍛え上げても、戦いの中で朽ち天寿を全うする事は無い。
彼らに必要な魔法は、治療魔法だとペスカは考えていた。
治療魔法は、かつて空が体現した様に、身体構造を知っていれば効能が増す。ただ魔法自体が、あくまでもマナのコントロールが充分であって、始めて出来る技術である。
ペスカは、手始めにマナのコントロールを、ゴブリン達に慣れさせようと考えた。
それが、肉体強化の魔法。
マナを使う際には、全身にマナを行き渡らせると、高い効果を発揮する。手足などの末端に、マナを漲らせる事は、マナがコントロール出来ている証でもある。
そして肉体強化の魔法を使えば、個々の限界を遥かに超える能力を、使用することができる。これは戦いにおいて、大きなアドバンテージになり得る。
ただしエレナの様に、マナのコントロールは出来るが、身体強化以外の魔法を苦手とする者は少なくない。マナのコントロール修行で、適性を見極め。治療魔法を教えるのが、ペスカの考えた第二ステップであった。
「関わったんだもん。絶対に無駄死にはさせないよ。勿論、エレナもね」
だが、ペスカは忘れていた。エレナの耳は、猫と同程度に聴覚が鋭い。ペスカの想いを聞いたエレナは、笑みを深めた。
「さて、明日からは新たな訓練ニャ。私も参加する限り、貴様らが逃げ出す事は許さんニャ」
「勿論です教官。我々は、絶対に引かない! やり遂げて見せます!」
やる気は充分。しかし、何から手を付けていいかわからない。それは当然だ。ズマは、魔法やマナなどの言葉自体を初めて聞いたのだ。対して、エレナは天才肌なのだろう。マナのコントロールは、誰かに教わった訳ではなく感覚的に行っている。
流石のエレナも、ズマには教えてやる事は出来ない。両者は揃ってペスカを見る。
ペスカは、少し溜息をつく。わかっていた事だ、自分が教えるしかない事は。そしてゴブリン達に、細い腕と同サイズの枝を持たせる。
「ズマ。これを折ってみて」
ズマはありったけの力を込めるが、全く折れる気配は無い。それを確認すると、ペスカはズマの手に触れ、身体に流れるマナを外部から操作する。ズマの体内に流れるマナは、ペスカの操作で両手に集中していく。
「ズマ。何か力が流れる感覚わかる?」
「はい、ペスカ殿。何か不思議な力が、両手に集まっています」
「なら良し。その力を手に馴染ませる様にして」
「わかりました。こうですかな」
ズマは、両手に集中したマナが、手と一体となる様に意識する。
「いいね。なら、もう一度枝を折ってみて」
ズマは力を込める。次は驚くほどあっさりと、枝が折れた。ズマは驚愕の表情を露にし、他のゴブリン達もポカンと口を開けていた。
「な、なんですか。これは、なにが起こったんですか?」
「これが、肉体強化だよ。これが上手く出来る様になれば、直ぐに強くなれるよ」
「す、素晴らしい。こんな方法があるなんて!」
「力の流れる感覚を覚えておいてね。後は慣れだからね」
「わかりました」
ズマは、ペスカにして貰った事を思い出し、体内でマナを流動させる事を意識し始める。その後ペスカは、他のゴブリン達にもマナが体内に流れる感覚を体験させた。
「これから毎日、朝と晩には、この訓練をするからね」
ゴブリン達は、揃って掛け声を上げる。
過酷な訓練による、ゴブリンの意識改革は終了を告げようとしている。今や戦士となったゴブリン達が肉体強化の魔法を使えば、直ぐに戦う技術も覚えるだろう。
大陸最弱の種族は、生まれ変わろうとしている。やがてこの最弱の種族が、大陸を救う一助になる事は、今はまだ誰も知らない。
数は少ないが、自らの手で獲った獲物が含まれる。ゴブリン達にとって、生きた獲物を獲った事は、今までに無い経験であり、小さな達成感を得ていた。
同時に力不足もゴブリン達は感じていた。
いつかは与えられるのではなく、自らの力で充分な食料を獲りたい。
歯噛みをする思いを感じながら、ゴブリン達は食事をする。過酷な訓練を乗り越える中で、ゴブリン達は与えられた現状を享受せず、自ら掴み取る事を重要視する様に思考を変えていった。
食事が終わると、ゴブリン達はズマを中心に反省会を始める。
どうすれば、訓練を乗り越え強くなれる。何が足りない、なぜ獲物を逃した。次は、どう工夫すれば良い。
直ぐに強くなるとは思っていない。だが、少しでも目標に近づいていたい。
日々の反省会は、エレナに言われる事なく、ズマが言い出し始めた事であった。反省会には、いつもエレナが立ち会っている。だが、今日の反省会には、ペスカも立ち会っていた。
中央の広間に集まるゴブリン達に向かって、ペスカは語り始める。
「はっきり言うよ。これ以上やっても、直ぐには強くなれない。私達人間が、ドラゴンと力比べをしても、腕力だけじゃ絶対に敵わないのと同じ。それは種族の差なんだよ。種族の限界を超えられないとは言わないよ。でも直ぐに出来る事じゃない。凄く長い時間をかけて修行して、やっと超えられるんだ。直ぐには、強くなれないよ」
ペスカの言葉は、これ以上も無い位に辛らつであった。
ゴブリンは所詮ゴブリン。エレナから受けた特訓が無駄とは言わない。でも、その壁を超えるには、長い時間が必要になる。そう、一朝一夕で成し遂げられる事ではない。それを理解しているから、心に響くのだろう。
力不足は、いつも感じている。
走れば、教官であるエレナに、ついていけない。戦闘では、掠る事すら許されない。体力面でも、いつも先にダウンするのは、ゴブリン達である。
だが、今更なのだ。知っている、力不足を理解している、だから必要な事を模索しているのだ。
ペスカの言葉がどれだけ辛らつであろうと、ゴブリン達は俯かない。
事実を正確に受け止め、次に進むための糧とする。成長を始めたゴブリン達は、あらゆる事を吸収している。
だからこそ、ペスカは手を差し伸べるべきだと感じていた。一歩先に進みたい、彼らがそう思うなら尚更なのだ。
エレナの行っているのは、基礎訓練に過ぎない。それで多少強くなったとしても、戦いの場では役に立たない。
それならば、本当の戦いを見せてやればいい。か弱い人の子が、身体能力に優れたキャットピープルに勝つ所を。
「本気かニャ?」
「当たり前でしょ! それとも、エレナは出来ないの?」
「放出系と回復系は苦手ニャ。でも肉体の強化は得意ニャ。馬鹿にしちゃ駄目ニャ」
「それが出来れば充分よ」
「ペスカは、甘く見過ぎニャ。これでも私は、キャトロールで最強ニャ」
「本気でやらないと、怪我するよ」
「それは、こっちの台詞ニャ!」
ペスカは半身を傾ける様に、右手と右足を前に出して構える。対してエレナは構えず、リラックスする様に、体を上下に揺らしている。
開始の合図は無く、互いのタイミングで勝負が始まる。
エレナが僅かにジャンプをし着地した瞬間に、突き出した拳はペスカの眼前にあった。ペスカは動揺する事無く左手で突きを捌くと、右の拳でエレナの鳩尾を打ち抜いた。
一瞬の攻防は、ゴブリン達には見えていない。しかし、痛みで顔を歪めるエレナの姿だけは、しっかりと捉える事が出来た。
エレナは直ぐに距離を取り、攻撃姿勢を取る。だが間髪入れずに、ペスカの回し蹴りがエレナの左側頭部に迫る。
エレナは両手で蹴りをガードする。しかし、蹴りの勢いを殺す事は出来ずに、やや後方に飛ばされる。そして飛ばされた際に、エレナのガードが少し緩む。
ペスカは更に回転して、エレナに蹴りを打ち込む。狙うのは、防御が緩んだ胴。ペスカの蹴りは、エレナの左わき腹を軋ませる。
エレナは大きく飛ばされて、ゴロゴロと転がった。
直ぐに立ち上がるエレナの眼前には、ペスカの拳が有る。ペスカの勝利である。しかし、ズマは一連の攻防が不思議でならなかった。
なぜそんなに早く動けるのか。それは、人間とキャットピープルだけに許された技術なのか。ゴブリンには不可能なのか。
考え込む様にし、ズマは眉間に皺を寄せる。その様子を見ていたペスカは、徐に口を開いた。
「ズマ、これは魔法なんだよ」
「魔法ですか?」
「私とエレナは、身体強化って魔法を使ったの。だから、あんなに早く動けたの。あんた達ゴブリンも、出来る様になるよ」
「本当ですか、ペスカ殿」
「嘘は言ってないよ。だってエレナは、常時マナで肉体の強化してるよ。多分、当たり前になって気が付いてないだろうけど」
「そう言われれば、確かにニャ」
「だから私達は、種族の限界を遥かに超えて、飛んだり跳ねたりしてるの」
「そんな絡繰りがあったとは。ぜひ、我らにもお教えください」
「まぁ、最初はマナのコントロールからだね。それから治療魔法を覚えて貰うよ。治療魔法はエレナも一緒に修行しなよ。後々役に立つと思うからさ」
ペスカは本来、近接戦闘を得意としていない。ゴブリンを治療している所を見て、エレナは漠然とそう理解していた。それにも関わらず、圧倒された。理由はわかっている、マナの差だ。ペスカの場合は、既に神気と化しているのだが。
エレナもまた、己の未熟を理解した。上には上がいるのだと。そしてこの一戦が、エレナにとって転機となる。
そもそもペスカは、ゴブリン達を対トロール戦で使い捨てにする気は毛頭ない。この大陸でも通用する、立派な戦力に育てようと考えていた。
それには自立する事は勿論、戦いの技術だけでも足りない。ゴブリンを始め多くの魔獣達は、傷付いても薬草を患部に貼り、自然治癒を待つ程度の医療技術しか無い。それでは幾ら鍛え上げても、戦いの中で朽ち天寿を全うする事は無い。
彼らに必要な魔法は、治療魔法だとペスカは考えていた。
治療魔法は、かつて空が体現した様に、身体構造を知っていれば効能が増す。ただ魔法自体が、あくまでもマナのコントロールが充分であって、始めて出来る技術である。
ペスカは、手始めにマナのコントロールを、ゴブリン達に慣れさせようと考えた。
それが、肉体強化の魔法。
マナを使う際には、全身にマナを行き渡らせると、高い効果を発揮する。手足などの末端に、マナを漲らせる事は、マナがコントロール出来ている証でもある。
そして肉体強化の魔法を使えば、個々の限界を遥かに超える能力を、使用することができる。これは戦いにおいて、大きなアドバンテージになり得る。
ただしエレナの様に、マナのコントロールは出来るが、身体強化以外の魔法を苦手とする者は少なくない。マナのコントロール修行で、適性を見極め。治療魔法を教えるのが、ペスカの考えた第二ステップであった。
「関わったんだもん。絶対に無駄死にはさせないよ。勿論、エレナもね」
だが、ペスカは忘れていた。エレナの耳は、猫と同程度に聴覚が鋭い。ペスカの想いを聞いたエレナは、笑みを深めた。
「さて、明日からは新たな訓練ニャ。私も参加する限り、貴様らが逃げ出す事は許さんニャ」
「勿論です教官。我々は、絶対に引かない! やり遂げて見せます!」
やる気は充分。しかし、何から手を付けていいかわからない。それは当然だ。ズマは、魔法やマナなどの言葉自体を初めて聞いたのだ。対して、エレナは天才肌なのだろう。マナのコントロールは、誰かに教わった訳ではなく感覚的に行っている。
流石のエレナも、ズマには教えてやる事は出来ない。両者は揃ってペスカを見る。
ペスカは、少し溜息をつく。わかっていた事だ、自分が教えるしかない事は。そしてゴブリン達に、細い腕と同サイズの枝を持たせる。
「ズマ。これを折ってみて」
ズマはありったけの力を込めるが、全く折れる気配は無い。それを確認すると、ペスカはズマの手に触れ、身体に流れるマナを外部から操作する。ズマの体内に流れるマナは、ペスカの操作で両手に集中していく。
「ズマ。何か力が流れる感覚わかる?」
「はい、ペスカ殿。何か不思議な力が、両手に集まっています」
「なら良し。その力を手に馴染ませる様にして」
「わかりました。こうですかな」
ズマは、両手に集中したマナが、手と一体となる様に意識する。
「いいね。なら、もう一度枝を折ってみて」
ズマは力を込める。次は驚くほどあっさりと、枝が折れた。ズマは驚愕の表情を露にし、他のゴブリン達もポカンと口を開けていた。
「な、なんですか。これは、なにが起こったんですか?」
「これが、肉体強化だよ。これが上手く出来る様になれば、直ぐに強くなれるよ」
「す、素晴らしい。こんな方法があるなんて!」
「力の流れる感覚を覚えておいてね。後は慣れだからね」
「わかりました」
ズマは、ペスカにして貰った事を思い出し、体内でマナを流動させる事を意識し始める。その後ペスカは、他のゴブリン達にもマナが体内に流れる感覚を体験させた。
「これから毎日、朝と晩には、この訓練をするからね」
ゴブリン達は、揃って掛け声を上げる。
過酷な訓練による、ゴブリンの意識改革は終了を告げようとしている。今や戦士となったゴブリン達が肉体強化の魔法を使えば、直ぐに戦う技術も覚えるだろう。
大陸最弱の種族は、生まれ変わろうとしている。やがてこの最弱の種族が、大陸を救う一助になる事は、今はまだ誰も知らない。