明日からライブに行って、
この家に帰るのは明後日になる。

本当に帰るかなんてかわからない。

そもそもここは夫が借りていたマンションだった。

私の前に住んでいたマンションの契約が切れるタイミングでこの家に転がり込んだ。

私のほうが居候している身分だったのだ。



まだ、同棲を始める前に私が、睡眠障害になった。

会社に行けなくなって、家にいても在宅ワークに切り替わってずっと仕事の連絡がひっきりなしに続いて、自宅にもいられなくなった。

夫は、不健康に痩せていく私を何も言わず家に迎え入れて、そこに存在することを許してくれた。

仕事に行け、とも行くな、とも言わず、ただ淡々と過ごす日常に私がいることを許してくれていた。

眠りすぎる私を『寝る子は育つよ』ていい、
一睡もしない私を『元気だね。俺も明日休みやから起きとこうかな』とただ認めてくれた。

だから好きだったのに。こんな裏切り方、あり得なかった。
優しい人、浮気しがちな人だとは知っていたけど、
まさか貧乏学生のカモになるだなんて。

あの時推してきたアイドルを思い出す。
もっと私を殴ったりしてくれたらいっそ『最低!』と罵って嫌いになれたのに。

二人の寝室に鍵をかける。

ベッドボードに置かれた新品のコンドームの中身だけ抜いた。
キャリーバッグに明日必要なものを詰めた。ペンライトと、スローガン、着替え。一番私が輝くワンピースとコスメ。

どうか、後藤神楽くん。最高に輝いてくれるように。

私なんか霞んでしまうほど、輝いてよ。お願い。

ベッドに入ってまぶたを閉じる。

夫のアプリに移る、加工された若い女の子の写真がずっと瞼裏に映り続けた。