半年後に連絡があり、私は高速バスターミナルまで自動車で迎えに行った。
あの後、クラセルの人気は爆発する、なんてこともなく、ただただドッキリを仕掛けられるか、バンジージャンプをするか、歌番組に出るかとかそれくらいだった。

沙良も別に離婚したわけでもなく、なんてことなく2人で暮らしているようだった。

私もモテることも求婚されることもなく、ただただ結婚はいつするのか、女が廃るとか意味のない呪いをかけられ続けていた。

意外とはじめから私たちはずっと同じ世界に生きていたのだと最近思う。

結婚したからって幸せとは限らないし、独身だからって不幸とも限らない。

アイドルを応援したっていつか予測を裏切って来るかもしれない。アイドルも人間だから。
たまたまそれぞれが立っているステージが違うだけで、
時の流れは同じだ。


「いや、旦那と一緒に地元帰ってくるんは一番よくわからん」

高速バスから降りてきた沙良とその旦那は、私に向かって頭を下げた。旦那の頭をそのまま下にしばいても良かったけど、私は何もしなかった。多分、2人で、解決した問題だろうし。私には理解できない領域だろう。
そこまでして夫といっしょにいたい理由を私は今後理解する瞬間がくるんだろうか。現時点では絶対ないだろうなって思う。
それだけに、沙良が何を考えているのか分かり合えないだろうな。

結局、夫はグレーよりの白だった。パパ活でカモになっていただけだったらしい。それも離婚理由になりそうだけど。

「クラセルのライブ、夫の名義で当たったからさ」

「え?ファンクラブはいってんの?」

曖昧に笑う旦那を見て、入らされたという表現が正しそうだなと分かる。

「今からライブ行くの。麻沙美は?」
「あー…私今回応募したけど当たらなかった」

嘘。
元々興味がそんなに無くて、お金もないから応募しなかった。

「じゃあ、ライブ終わり空いてたら一緒に遊んで」

「え?夫は?」

「僕はすぐ帰るんです。仕事で」

「ふぅん」

私が訝しげに見ると、目をそらされた。私は結婚式で見た彼とは別人だと思う。それくらい嘘くさい。でも、沙良が一緒に生活すると決めたなら私は何も言えない。
沙良のステージのオーディエンスだから。
プロデューサー面なんかしたくなかった。

「いいけど、私ライブ見てないよ。感想言われても何もわからんよ」

「関係ないじゃん。オタ活よこれも。私の話を聞いてくれる?」

結婚しててもしてなくても。
私たちはアイドルの前では平等だ。
でも、
元々ずっと前から平等だったのかもしれない。