家に帰るまでがライブなのに、不完全燃焼のまま、電車に揺られた。今までのライブは夢心地のまま帰宅し、ベッドに入り、夢の中までライブをしていたのに、今日みたいなアウトな鑑賞の仕方をしたことは初めてだった。

「おかえりなさい」

駅改札抜けると夫が立っていた。のを無視して歩く。
背の高い、優しそうな、気弱そうなとよく言われる顔をしている。お人好しで、自分の身を削ってしまいそうな人。
だから人からの好意にホイホイついていって浮気が絶えない最低な人。

そんな人が私を追いかけてくる。男の歩幅は大きくて直ぐに追いつかれた。

「待ってよ。謝らせてよ」

「何?何に対して謝罪?」

「ひどいことして、傷つけてしまったこと。あと、あの子には全部説明してきた」

「何?不倫バレました。別れよう、って?馬鹿じゃないの」

「そしたら向こうは不倫どころか、パパ活が目的で、ご飯食べたり、カバンあげたのを売ったりして生計立ててたみたい」

「それを私に伝えて、貴方が貧しい人に金銭を与える優しい人で、彼女が卑しい女っていう見方を、私にしてほしいの?」

「…」

「何が違うの?私のことだって可哀想だと思ったから匿っただけでしょ。謝られても許すとは一言も言ってないからね」

「…どうしたい?沙良」

「浮気とか、病気だと思う。私のパニック発作と一緒。直ぐには治らないんだよ」


痴話喧嘩をしても。駅の人たちはそれぞれの人生を生きているから目もくれなかった。

「一生、許さないよ。今回のこと。だから監視役として、この1年は今の生活を継続するのはどう?」

「え?離婚しないでくれるの?」

「1年は、ね。次はないよ」

甘すぎる、自分でも思う。
自分より7つも下の女に貢いでいた男と暮らすなんて正気じゃない。
でも、離婚したときのデメリットや、
今の夫の本気で反省した姿を見て、
お試し期間があってもいいのかな、とふと思った。

サバ番でも、ユニットを組んで、デビュー前審査をしていた。
夫にもそれくらい、真意を見せてほしいと思い、提案した。
「ありがとう。チャンスくれて」

「じゃあ、早速お願いがあるよ」