『急にごめん!お願いやから、後藤 神楽に一票いれて!死票で落ちてほしくない!』

久々に来たメッセージは結婚式参列してくれてありがとうというメッセージから半年ほど経った後だった。

沙良がアイドルオタクで、いろんなジャンルのアイドルを応援していたのは中学生の頃から知っていた。
当時はキラキラで全身凄い色のスーツを来た美少年が舞台の上で歌い、踊り、時に泣きしている姿を見る素晴らしさを私に説明してくれていた。

私は、沙良ほど熱を入れることはなかったが、テレビに出てくるアイドルの顔と名前を一致させる程度は認識できるようになっていた。

沙良は自分の年齢より3つくらい離れた、澤田純也くん?(だったはず)を応援していた。

時にLIVEDVDを一緒に鑑賞したり、お土産にライブグッズをくれたりしていた。

でも、澤田くんが未成年飲酒と恋人への暴行が夜にバレてから、次第にその話をしなくなった。

もう、アイドルには興味がなくなったのだと勝手に思っていたのだけど、メッセージをみる限りそうでもなさそうだった。

最近、サバイバルオーディション番組が流行っているようだった。韓国ではよくある番組で人気だという。

アイドルオーディションで、合格か否かを決めるのは、テレビを観ている私たち一般人という、視聴者参加型番組を、沙良は見ているようだった。

『私、番組見てないんやけど』

『この子!チッケムだけでもいろんな子見て!最終投票来週やからそれまでに過去放送出来る範囲でおさらいして!2票投票できるから、あと一人は好きな人に入れて!』

早口でまくしたてるような言い方。文字なのに温泉で再生された。

画像と動画が追加で送られてきた。

学生服を着た、流し目の彼はこちらを試すかのような表情をしていた。
送られてきた動画は1分PRというもので、彼が投票を呼びかけるものだった。

凛々しい顔立ちをして、特技のけん玉をする姿は、確かにギャップがあった。
けん玉の世界一周を成功させると、弾けるような笑顔を見せた。まだ18歳だというのがそれだけでわかる。フレッシュで生き生きとしてて、頬のハイライトが自然発生しているものだった。


澤田くんの顔を思い出そうとしてもモザイクがかかって鮮明には思い出せない。でもこの後藤 神楽くんには似てないし、沙良の旦那にも似てなかった。


まず後藤神楽くんに一票入れるとして、後残り、27名から選ぶ必要があった。上位11人でデビューが決定するらしい。

ネットで調べると、ファンそれぞれが票獲得のために宣伝をしていた。


まだ一般人の彼らにそこまで熱を上げられる顔も知らない人たちが日本にたくさんいる。私の近くに沙良がいる。


「すごいわ…」

とりあえず、後藤神楽くんとケミ(仲良しコンビみたいなものらしい)と言われる桜井理人くんに投票を決めた。

後藤神楽くんは予想順位6位、桜井理人くんは12位だった。

『後藤神楽くん、6位やけど』

『みんな6位で安心して、他の人に投票してしまうんよ。そうしたら結局後藤神楽くんの獲得票そのものが少なくなって圏外になる!今までのサバ番はそれでデビューできない、魔の6位になった子がたくさんおる!』

彼女も必死なのか、すごい速さのフリック入力で私に問いかける。

とりあえず私の票は後藤神楽と桜井理人のものになった。

そして3日後の最終回、無事、後藤神楽くんと桜井理人くんは8位と11位でデビューした。

そこで私の興味と仕事が終われば良かった。