しかし、そんな照れくさいひとときはすぐに終わる。視線は少し俯かせて、体をかがませ、手を差し伸べてくれる。そこへ手をのせると、勢い良く引っ張られて抱きとめられた。

 体と体が密着し、鼓動がドクドクと速さを増す。しかも力が非常に強くて、大切なものが壊れそうに苦しかった。

「……く、椋翔」

 うめくようにこぼすと、はっと我に返ったように力を緩めてくれる。

「……ごめん、つい」

 それでも体をケガしているからか、手を離してくれることはなく、代わりに渡されたのは1通の封筒だった。それは桜の花びらのような儚いピンク色をしている。

「これ……」
「姉貴の遺書だ。昨日母さんが姉貴の部屋の机の引き出しから見つけてきて『ごめん』って言いながら渡してきた」

 それを開いてみると、美しく丸みのある文字が綴られていた。その字が本当に椋翔と血が繋がった姉弟のものなのかと目を疑ってしまうほどだった。しかし、手紙は途中までしか読まれていないような気がした。
 
「椋翔は……最後まで読んだの?」
「まだ……読んでない」
 
 そう言った椋翔の表情は悲しみと戸惑いをはらんだ、複雑なものになっていた。遺書を読むということは椋翔にとって姉貴の死を認めることに等しいのだろう。だからなかなか読めずにいるのだろう。
 
「読もうよ!一緒に」
 
 私がいるよ、ひとりじゃないの。
 さぁ、一緒に。