それなのに世界はバカみたいに眩しくて、街を行き交う人も何事もなかったかのように歩いていて、俺だけが置いてかれているような気がしてならなかった。

 その日から完全に俺は前を向けていない。
 なぁ姉貴、一緒に連れて行ってくれよ。
 どこまでも一緒にいたいんだ、姉貴と。
 たとえその先が地獄だろうがなんだろうがどうだっていい。
 そう、俺はどこまでも姉貴思いだった。

 でも、道路に飛び出そうとすると、姉貴の声が聞こえてくる。こっちには来ないでって。目の前に姉貴がいるわけでもないのに。

 まるで生きてって。あのときみたいに腕を引っ張っられたみたいで、姉貴のもとにいけない自分が悔しくてもどかしかった。 

 姉貴の死と向き合いたくなくて、葬式にもお墓参りにもいけなかった。行ったら死んだと認めたことと同じだと思ったから。

 姉貴がいない世界は俺の生きてる世界じゃないみたいで、もどかしくて部屋に閉じこもって枕を涙で湿らせて、開けても暮れても泣いた。そして泣きつかれて寝た。

 どこかに居場所を見つけたくて、本を開く。そしたら次は小説が書きたくなる。この感覚は姉貴がいなくなっても全く変わらなかった。それが嬉しくてまた小説を書き始めた。
 でも……。

「あんた、耳がバグっとるんでしょ?まともに音を聞き分けられないのに小説なんか書けるわけないでしょうが!」

 母さんは変わらず、そこを邪魔してくる。身の毛がよだつような恐ろしい形相で俺を睨んでくる。

 そのせいで、俺は今でも誰にも自分の小説を見せれていない。ペンもろくに進まなかった。

 悪夢のような日々は終わらないのだ。
 この耳は治らないから。
 おそらく自分でも気づかぬうちにたまっていた精神的ストレスと姉貴の救いを求めた俺への天罰だから。
 これまでも、これからも、ずっと。