その光景はひどいなんて言葉では到底済ませれない、目を背けたくなるほどの惨状だった。

 虹七の頰の血の気が失せていくのを目の当たりにし、俺の心臓は氷のように冷え切った。不覚にもその小さな体を背中に背負わずにはいられなかった。あまりにも現実離れしていて、胸が引き裂かれようだった。

 本当はその場で大声を張り上げ、虹七をどうにかして目を覚まさせたがった。だが、喉は相変わらず声を拒み、ただ無言のまま彼女を背負って歩き出すしかなかった。心の中で叫び続ける自分の声が虚しく反響し、ただ虹七を守りたい一心で足を動かした。

 虹七が意識を取り戻した瞬間、俺の心には安堵と安らぎが広がった。けれども、彼女が自分の過去を打ち明け始めた時、そこで語られたのは俺の記憶の中で色褪せることのない姉貴の話だった。

 姉貴の面影を重ねてしまうことが、彼女に対しての裏切りであるかのような感覚に苛まれ、これ以上その境界を曖昧にするわけにはいかないと、俺はその場を立ち去るしかなかった。

 胸の奥底に残る姉貴の存在と、目の前の虹七、その二つが交差することの恐れから逃れるようにして。
 
 しかし今、虹七は足を引きずりながらも松葉杖を投げ捨て、痛みも恐れも顧みずに、俺に真正面から向き合おうとしている。

 その強い決意と誠意を無視するわけにはいかない。それに応えることが、自分の使命だと思う。

 幼い頃から、俺は本当に弟としてここにいるのだろうかと疑う瞬間が幾度もあった。

 足は遅いくせに、体力だけは無尽蔵な姉貴が日が暮れるまで走り回るのを追いかけたり、止めどなく溢れ出すマシンガントークに耳を傾け、いつだって話相手を務めていた。

 姉貴の気まぐれと奔放さに振り回されながらも、まるで見えない糸で繋がれた執事のように、俺はいつも姉貴のそばにいた。

 それが弟としての役割なのか、それともただの都合のいい存在なのか、その答えは誰にも教えてもらえず、俺はいつも姉貴の背中を追い続けていた。