しかし、それはつまり、虹七を姉貴と重ねてしまっている自分を認めることにほかならなかった。その事実に向き合うのが怖かった。
 
 だからこそ、彼女との距離を意識的に取ろうと試みたものの、虹七の存在は俺の中で姉貴のようにあまりにも鮮烈で、離れようとするほどに惹かれてしまった。
 
 逃れられない重力のように、俺の心は彼女に引き寄せられ、もがくほどに絡め取られていった。
 
 気づけばいつも頭の中を支配しているのは虹七の存在で、脳裏に浮かぶ光景には、俺と虹七が笑顔で楽しげに会話を交わしている姿ばかりがあった。
 
 その空想の中で俺たちは、現実の距離を忘れて、まるで幼馴染のように自然にはにかみ合いながら、言葉を紡いでいた。
 
 そんな思考に囚われているせいで、榎さんが丁寧に作ってくれたプロットを前にしても、物語の執筆に集中することなど到底できるはずもなかった。
 
 虹七が俺の内側で存在感を増すたびに、現実と虚構の狭間で迷い込むようにして、ただ彼女との時間を夢見ていた。

 そのことを一番知られたくない相手は、何よりも虹七だった。自分の妄想癖や歪んだ感情を知られ、変態だと思われるのが怖かったのだ。
 
 だから、虹七に対しては決して邪な考えを抱かないよう、いつも細心の注意を払っていた。
 
 それでも、ふと気が緩むと、俺の心は知らず知らずのうちに虹七との空想に浸り、それらの想いを小説の中に描き出していた。そんな自分が恥ずかしくて、虹七に対して正直でいることができなかったのだ。
 
 たとえ虹七が俺の書いた小説を読みたいと、懇願して土下座までしてきたとしても、その内側にある感情の奔流を見せるわけにはいかなかった。
 
 自分の心の中に広がる世界が、彼女にどう映るのかを考えると、恐ろしくて仕方がなかったのだ。

 その日の放課後、胸の奥に言いようのない不安が込み上げ、俺はなぜか足が勝手に体育館倉庫へと向いていた。そこには倒れ込むようにして力なく横たわる虹七の姿があった。