声はわなわなと震えていたが、言葉に込めた思いは真剣だった。
 
「僕も……同じだ。錦奈はそんなこと望んでない」

 櫂冬くんの声は低く、けれどその一言に彼の全てが込められているようだった。

「……ありがとう。実はね、虹七ちゃんを助けたいって言ってる人はもう一人いるの。椋翔くんなの。椋翔くんが虹七ちゃんを助けた時にメモ帳を通して知ったの。だからあたしはもう一度、プロットをつくることにした。そんな椋翔くんを助けれるのは虹七ちゃんだと思う。だって、椋翔くんの姉、錦奈さんと1文字違いというか、点々ついてるだけだもん。それに虹七ちゃんは錦奈さんを庇った張本人なんだから」

 柚香ちゃんは観念したように、それでいて想いを託すように静かに語った。
 確かに似すぎている。だからこそ椋翔くんは「私の弟になって」という突拍子もないお願いを受け入れてくれたんだと思う。そして錦奈という名前を知らずに私が庇ったことを知り、椋翔くんは私を避けてきたのだろう。

 顔だけイケメンで突き放してくるような、一面がありながらも私を助けてくれた大嫌いな椋翔くん。そんな彼を私は助けれるだろうか。わからない、わからないけど。 

「わかった、月曜に椋翔くんの家を丘先生に聞いて訪ねてみる」

 でも、この時の私はまさかあんなところに椋翔くんがいるとは思いもしなかった。


「椋翔くんの家って、どこですか?」
 月曜日、私は朝1番にその質問を投げかけた。

「えっと、それはね――」

 丘先生が答え始めたその瞬間、電話の音が突然言葉を遮るように響き渡り、会話が中断される。
 
 丘先生は保健室の端にあった内線の電話をとる。

「こちら、丘です。……は、はい。ええ、えっ!あ、はい。わかりました。探してみます。失礼します」