それからリーダー格の人を避けるように不登校になり、罪悪感にさいなまれる日々を過ごしていた。心のどこかでは私を助けたいと思いながらも、そしたら次は自分がいじめの標的になると思い、中々踏み出せなかったんだという。

 柚香ちゃんが不登校を始めて2ヶ月後、愛する母を失い、それがきっかけか子どものころにテニスを母とやっていたことを思い出し、気づけばラケットを持って公園にいたという。そこでうなだれていた櫂冬くんと出会ったんだとか。

 柚香ちゃんは櫂冬くんに自分の素がばれないように一途な乙女を演じた。そして私が顔を認識してもらってないことをいいことによく思われようと働きかけていた。
 
 意表を突く衝撃的な告白に、息が止まりそうになった。背筋が凍り、体が自然とすくむ。
 柚香ちゃんは、力なく「ごめんなさい」と何度も呟きながら、涙を流し続けていた。その様子に櫂冬くんは、震えながらも抱きしめていた手に更なる力を込めて、静かにこう告げた。

「今度、一緒に錦奈のお墓参りに行こう。そこでちゃんと錦奈に謝れ。そしたら許す……だから別れるなんて言うな。虹七さんも、それでいいよな?」
  
 櫂冬くんの額には深い皺が刻まれており、その表情からは、今すぐにでも柚香ちゃんを怒鳴りつけたり、責め立てたりしたい衝動がひしひしと伝わってきた。それでも彼は、その激しい感情を必死に抑え込み、心の奥深くに押し込めているかのようだった。

「よくないよ、あたしを殴って!櫂冬。そして丘先生に白状しにいくの!」
 
 柚香ちゃんは、涙を滲ませながら、切実な声で訴えていた。その声に私は思わず反応し、声を張り上げて制した。
 
「たぶん錦奈さんはそんなこと望んでない……色々苦労してる中で、みんなに迷惑かけちゃうんだろうけどさ……それで自分を責めちゃうし、どうせ誰からも好かれないって決めつけてしまったりするんだよ……でも寂しくて、誰かと話したい気持ちや優しさもちゃんとあるんだよ」