そして家を出ると、意外にも柚香ちゃんはすぐ近くにいた。ブロック塀の向こう側に背を預けており、こちらからは二つ結びにした髪の端しか見えない。途切れるような嗚咽が静かに響き、柚香ちゃんがひっそりと泣いていることを、私ははっきりと感じ取った。
 
「ふたりとも……なんで。あたし、ふたりに嫌われてもおかしくないことをしたんだよ」

 こちらに気づいたのか、柚香ちゃんは弱々しい声で吐き出した。

 その瞬間、櫂冬くんは私の手をそっと離し、深く錆びた灰色の柵のような扉を開けて、柚香ちゃんの真ん前に立った。彼はそのまま彼女を優しく抱きしめ、静かにこう言った。
 
「僕達、運命の出会いじゃん。錦奈も失って柚香とは別れるなんていやだよ。聴かせてよ、柚香の叫びを」
「……あたしね、錦奈さんをいじめていた1人なの」

 柚香ちゃんはそう言って、櫂冬くんの胸に顔を預けながら言った。
 その話によると、錦奈さんは遅刻したことに「明日は必ず来ます」と言って謝罪した。しかし次の日もまた遅刻してきたらしい。

 さらに課題を忘れたり、生物の時に現代文の教科書を間違えて持ってくるなどと、その場しのぎに口だけで図々しいというか、性懲りもないというか。
 柚香ちゃんはそんな錦奈さんが気に入らないくていじめていたらしい。リーダー格は別の人でその人は虹七ちゃんもいじめてたという。
 
 運動靴を隠したり、わざと遊びに誘って、ちゃんと待ってる錦奈さんを影でくすくすと笑いながら放置していたこと。

 錦奈さんは足が遅いらしく、50メートルを走ればどんなに頑張っても13秒台だという。柚香ちゃん達はそれを理由にしてクラスのレクリエーションで錦奈さん1人を鬼にして、みんなで逃げ回り、もてあそぶように煽ったりからかいまくったらしい。

 錦奈さんが話かけようと近づくと、柚香ちゃん達はあからさまに避けてヒソヒソ話をしあったんだとか。
 
 そんなこんなである日、私が錦奈さんを庇い、錦奈さんが不登校になった時点で、柚香ちゃんは自分がしたことの重さを知ったんだそう。