ふと頭の中に錦奈の遺言のような言葉が蘇る。それは柚香が口にした名前と同じであった。

「もしかして櫂冬にも助けたい人いて、あたしと同じやつだったりする?」

 その事に言葉を失っていると、勘づいてくる。
 
「……なんでだよ」
「今はうまく言えない。櫂冬は?」
 
 柚香は顔を俯かせて言ってきた。理由がなんだか知らないが、死んだ錦奈のことを話すのは躊躇われた。
 
「あのさいつか……柚香が話したら俺が話す。俺が先に話したら、そのあと柚香が話すってのはどう?」
「な、なにそれ。話さないまま一生終わるよ」
 
 僕の突拍子もなさそうな発言に柚香は面食らったような顔をした。
 
「いいじゃん、最終的にはその虹七さんって人を助けられればいんだから」
「櫂冬ってほんとバカだね。それ、のった」

 こうして俺達は恋人でありながらも、虹七さんを助けるための協力関係をつないだ。そして保健室へ行く途中、ある人に出くわす。

「ケガはしてなさそうだけど、もしかして虹七さんに用?」
 
 アーモンド型の眉と目をした、白衣姿の教師。そう、保健室の丘先生。彼女は僕達の心を見透かしたような発言をしてきた。
 
「どうして……わかったんですか?」
「ケガじゃないならそれかなと思って。じゃあ、先生も助けたい人もう一人いるから協力して」
「いいですけど、そいつ誰ですか?」
「紅椋翔。櫂冬くんと同じクラスで図書室登校してる子よ。彼今執筆の手が止まっているみたいだから手伝ってあげて」

 そうして協力関係が広がり、今に至ることになる。