「は?僕たち、初対面だぞ」

 驚きのあまり、声が上擦ってしまう。その衝撃的な発言が、まるで頭の中を鈍器で殴られたかのように響いた。現実感が薄れたような感覚に陥り、何をどう返せばいいのか、一瞬わからなくなってしまう。

「いいの、ちょうどカレシいないし。年は?」
「……中3」
「じゃあ、あたしの高校ついてきて。受験勉強つきあうから。見た感じ、全然してなさそうだし」
「……まぁ、そうだけど」
「決まり!明日から気合い入れてやるからねー」
 
 そうして強引だけど柚香と付き合うことになり、連絡先を交換した。しばらくして教室に復帰すると、いじめは自然消滅していた。受験勉強でそれどころではなくなったのだろう。誰も話かけてはこず、一匹狼みたいだったけれど、おかげで安定した学校生活を再スタートできた。

 柚香は意外と頭が切れるやつでスパルタなところがありながらも、息抜きにラリーにつきあってくれたりした。

「なんでそんなに力が入るんだよ」

 仲とか関係なく付き合いはじめ、いつしかこうなってることに疑問が浮かびある日問いかけてみる。

「だって櫂冬バカだし、一緒の高校通ったら楽しそう。それにあたしどうしても助けたい人がいるの。1人じゃ無理そうだからちょうどいいし、力貸してよ」

 その言葉には、軽い調子でありながらも柚香の強い決意が垣間見えた。
  
「は?誰だよ、そいつ」
「同じ学年の紫花虹七ってやつ。今保健室登校してる」

――わたしなんかをね、紫花虹七って子が庇ってくれたんだ。なぜかわかんないんだけどね。その子を助けてほしい。今わたしの代わりにいじめに遭ってるから。わたしには助けられないからよろしくね――