『じゃあ、話すことはありません』

 筆談はいちいち書くの面倒くさいし、絶対に仲良くなんてしてやるものか。

『あれ、さっき弟になってと頼んだよな?』

 たかをくくっていると、イケメンは濃い琥珀色のビー玉みたいな冷たい瞳で睨んできた。その仕草は責められてるみたいで身の毛がよだつ。

 そして幾度となく自然に目は引き寄せられてしまうし、煩わしい。もうちょっと顔がブサイクとかだったらいいのに。
 
 ぽっと火が出て顔が熱い気がする。胸の鼓動は速さを増しているし、なんなの今日は。

 確かに頼んだ。けれど口が勝手に動いただけ。その理由を書いても納得してくれない気がする。
 
 お願いの内容的にそれ相当の理由がないとおかしいし、せっかく了承してくれたのに断るのも変だ。

 そもそも弟ってなんだろう。下の子や上の子がいるってどんな感じなのだろう。憧れたこともないし、ひとりっ子の私には到底理解不能な問題だ。

『嘘つき。せっかくだから仲良くしろ。今、俺運命的なものを感じてるから』

 黙っていると、イケメンは栗色透き通った目で私の顔を覗き込んできた。ずるい。こんなことされたら断りにくいではないか。

『そもそもなんで筆談なんですか?』

 とはいえ、会話が噛み合ってないような気はするが、筆談はいちいち面倒くさい。

『図書室は沈黙が暗黙のルール』

 イケメンではなく真面目くんか。理論上は合っているけれど、今図書室には私達以外誰もいないし堂々と声出して話してもいいじゃないか。誰にも迷惑なんてかけないし、人だって昼休みにならない限りは来ないはず。

『声出せないんですか?私の声が聞こえないならそのヘッドフォン外してください』