「虹七のアホ」
 2度目の言葉をぶつけられる。だから今度は仕返ししてやる。
「椋翔もアホだよ。錦奈さんのためならに何されたっていんでしょ?」
「まぁ、そうだけどさぁ……」

 クスクスとはにかんでいると、視界が急に真っ暗になった。そしてふっと唇が降ってくる。
 椋翔に目を塞がれてキスされたのだ。
 えっ、と思わず声が上擦る。そしたらもう一度唇が降ってきて、私の意識はどこかに持っていかれそうだった。

「……好きだ、虹七のことが。お前は?」
「……わ、私も」

 その日から私達は偽りの姉弟関係を解消し、恋人同士となった。 
 
 その日の夜。家に帰ると、壁に手をつけながらもバタバタと走り勢いよく電気をつける。

「どうした?あまり見ない顔だな」

 父さんは相変わらずソファの上で膝を抱えていた。

「父さん、私図書室登校やめる。ちゃんと教室行く。椋翔の心も開けたから父さんはいい加減、前向いて!」

 そのやつれた顔をまっすぐ見て宣言してやる。そしたら父さんはニヤリと笑って立ち上がり、こっちにきて私の頭をくしゃくしゃにしてきた。

「……何するのよっ!」
「よくやった。虹七は父さんの自慢の娘だ」

 私が戸惑っていると、父さんはケラケラ笑ってきた。その背後で心温さんの笑い声も聞こえた。

「成長したね、虹七。産まれなかった弟の分まで頑張って生きてほしいって、勝手な言葉押し付けてたけど、虹七は虹七らしく生きていいのよ」
「ありがとう、母さん」

 私はこのとき心温さんのことを初めて母さんと呼んだ。後を振り向くと心温さんは口元に手を当てて目を見開いている。それからは笑い声が響き渡り、私はちゃんと息をしっかりして生きている感じがした。