河川敷に着いて、ボクはそこにいるはずのない人物を必死に探す。
でも、彼女の姿はどこにもない。

そのとき、突然強い風が吹き抜けた。
髪が乱れて、視界が一瞬霞む。
風が止むと、周囲は異様なほどの静寂に包まれた――その瞬間。

「ひょっとして、私を探しているの?」

背後から声が聞こえて振り返ると、そこには花咲さんが立っていた。

「その顔……私のこと、美咲から聞いたんだね」

彼女は、何かを悟ってすべてを受け入れたような、そんな笑みを浮かべている。

「花咲さん……キミはいったい――」

耳の奥まで響くほど、心臓がバクバクと音を立てる。
橘さんが言っていたことがもし本当だったとしたら、その事実が怖くてたまらない。
だけど、そんなボクの気持ちをよそに、花咲さんは一瞬目を伏せたあと、深く息をついて――真実を告げた。

「私は……“霊”なんだよ」

花咲さんの言葉が胸に突き刺さり、全身が凍りつくような感覚に襲われた。
頭が真っ白になり、息が詰まる。
目の前にいるのは、ボクの知っている花咲さんだ。
“霊”だなんて……信じられるはずがない。

「そんなこと言って……どうせ、またボクをからかってるんだろ?」

声が震える。
いつもは花咲さんにからかわれるなんてごめんだけど、今回は許してあげよう。
だから、お願いだ……。
ボクをからかうための冗談だと言ってくれ――。

「じゃあ、私がキミをからかっているかどうか試してみようか?」

そう言って、一歩また一歩とボクに近づいてくる花咲さん。
彼女の足どりは音もなく、まるで風のようだった。
緊張と不安で、ボクの胸が激しく高鳴る。
もし花咲さんが人間なら、このままボクの体にぶつかるはずだ。
でも、彼女の体はふと霞んで、ボクの体をすり抜けていった。
寒気が背中を駆け上がり、ゴクリと息を吞む。

「これで信じてくれた?」

花咲さんは残酷にもボクに現実を突きつけてくる。
あまりにも受け入れがたい真実に、ボクは言葉が出てこなかった。

「いったい、いつから……?」

ようやく絞り出した質問に、花咲さんはじっとボクを見つめて答える。