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「星野くんって、医学に関する本って読むの?」
花咲さんが、いつもの調子で唐突に質問してきた。
「医学の本? あんまり読む機会はないけど……どうして?」
「なんとなく、星野くんって、哲学書みたいなちょっと難しい本をよく読んでるイメージがあったから」
「まぁ、確かに」
花咲さんの言う通り、ボクは小説よりも哲学書のような専門的な本を好んで読んでいる。
物事の根本的な意味や真理を知ることに興味があって、その考えを自分に取り入れるのが好きだからだ。
「でも医学ってかなり難しい言葉も多いし、理解するのに時間がかかるんだよな……」
「じゃあ、もし理解しやすいものだったらどう?」
「そうだね。それならまだ読めるかもしれない」
「それなら、オススメの本があるの。脳に関することなんだけど、とてもわかりやすいから読んでみて」
花咲さんにそう言われて気になったので、ボクはまた帰りに図書館へ寄った。
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花咲さんが薦めてくれた脳に関する本は、図やイラストが豊富で、専門的な用語もわかりやすかった。
ほかにも、脳の構造や機能について詳しく解説されている。
その中には、脳の病気についても書かれていて、その影響や治療の難しさについても記載があった。
最悪の場合は、脳の手術の後遺症で昏睡状態に陥ったり、命を落とすこともあるのだとか。
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「昨日キミが教えてくれた本、読んだよ」
次の日。
川のせせらぎを感じながら、ボクはいつもの場所で花咲さんと話す。
「どうだった? やっぱり難しかったかな?」
「いや、意外とわかりやすかったよ。図やイラストが多かったし、内容も興味深かった」
「そっか」
花咲さんの笑顔が、いつもより少しぎこちないように見えた。
ボクの思い違いだろうか。
すると、花咲さんは一瞬目を伏せてから、少し真剣な表情でボクに問いかけてきた。
「ねぇ……もし私が昏睡状態に陥ったら、星野くんはどう思う?」
「えっ……?」
突然の質問に、ボクは言葉を失った。
その瞬間、ひんやりとした風が吹き抜け、木々がざわざわと揺れる。
まさか、こんなことを聞かれるとは思わなくて、どう答えればいいのかわからない。
どうして花咲さんがそんなことを聞くのか、頭の中で必死に考えを巡らせる。
いつもの冗談なのか、それとも――。
必死で言葉を探していると、花咲さんは口元に手を当てて、少し笑った。
「たとえばだよ。そんなに深く考えなくていいから」
いつもの軽い口調だけど、心の中で何かが引っかかる。
「そんなこと言われても……正直わからないよ。キミがそんな状態になるなんて、全然想像できないし……」
ボクは言葉を絞り出すように答えたものの、頭の中ではまだ整理がつかなかった。
いつも楽しそうにボクをからかう花咲さんの印象が強すぎて、弱っている姿なんて思い浮かばない。
彼女が突然いなくなるなんて……。
そんなことを考えるだけで、なぜか胸がざわついた。
「でも……もし本当にそうなったら、やっぱり不安になると思うよ」
あくまでも想像の中だけど、心の奥底から本音がこぼれ出た。
その瞬間、沈黙が流れて、ボクはハッとする。
しまったっ!
また花咲さんにからかわれるんじゃないかと、恥ずかしさがこみ上げてくる。
だけど、ボクの予想に反して、花咲さんは目を見開いて驚いているようだった。
その反応に、ボクは拍子抜けしてしまう。
「えっと……黙られると、困るんだけど……」
ボクが声をかけると、花咲さんはすぐにいつもの笑顔に戻った。
「もーっ! こういうときは、私がいなくても大丈夫って言うんだよ」
冗談めかしてそう言う花咲さん。
いつものように……と思いたいけれど、心なしか元気がないようにも見えた。
からかい方も、なんだか少し違うような気がする。
だからなのか、普段なら花咲さんに軽く返せるはずの言葉が、今回はどうしても言葉が出てこなかった。
ボクの胸の中で、得体の知れない不安が膨らんでいく。
この感情がただの取り越し苦労であってほしいと思う一方で、花咲さんの問いかけが冗談に思えなかった。
本当は、花咲さんの真意が知りたい。
だけど、彼女が冗談で言っているなら、そのまま受け流すことにした。