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「で、何読んでるの?」
花咲さんはボクの隣に座って尋ねる。
「哲学書だよ」
「ふーん……それ、哲学書なんだ。てっきり恋愛小説でも読んでいるのかと思った」
「れ、恋愛小説!?」
突然、馴染みのないジャンルを口にした花咲さんの言葉に、思わず驚いてしまった。
そんなボクの反応を見て、彼女は頬杖をつきながらこちらをのぞきこむように見つめる。
「ねぇ、どうしてそんなに顔が真っ赤なの? ひょっとして、星野くんが読んだことがないジャンルだったから、恥ずかしくなっちゃったのかな?」
イタズラにほほ笑む花咲さんに図星をつかれて、うまく言葉が出てこなかった。
そんなボクの反応を見た花咲さんは、おかしそうに高笑いする。
「悪かったね、その手の話に慣れてなくて」
少しふてくされた声でボクが呟くと、花咲さんは笑いを抑えた。
「ごめんごめん。いつも本に向かって真剣な顔を向ける星野くんの表情が崩れるのがたまらなくて、からかうのがついつい楽しくなっちゃった」
そう言いつつも、どこかイタズラっぽく笑う彼女に、まんまとやられた気分になる。
少しムッとしたまま何も言えずにいると、花咲さんは膝に顎を乗せてボクを見上げてきた。
「ねぇ……怒ってる?」
まるでボクの顔色をうかがうように聞いてくる花咲さんに、ボクは思わずたじろいだ。
「べ、別に……怒ってないよ。どんな反応していいのか困ってるだけで……」
ボクがそう言うと、花咲さんはホッとしたように笑った。
「よかったぁ……からかいすぎて、星野くんに嫌われるのはイヤだったから」
不覚にも、彼女の言葉に心臓がドキッと音を立てた。
ボクが花咲さんにからかわれても嫌な気がしないのは、この愛嬌のせいだろうか。
結局、今日も彼女のからかいに翻弄されっぱなしのボクだった。