高校生になって二度目の夏休みがやってきた。

ボク――星野(ほしの)(ひかる)はトートバッグを肩にかけ、クロスバイクに乗って公園内の河川敷へと向かう。

朝早く、街はまだ静かだが、あちらこちらで蝉が元気に鳴いている。

河川敷が近づくにつれて、涼しげな川のせせらぎが聞こえてきた。

青空が広がる中、川の冷気を含んだ夏の風が頬をなでる。

その涼しさを感じながら、田舎道を走るのはとても気持ちいい。


目的地に着くと、邪魔にならないようにクロスバイクを停めた。

橋の下でできた日陰に腰を下ろして、天然水を一口飲んで(のど)(うるお)す。

四季折々の美しい風景が広がる河川敷。

春には満開の花が咲き誇る桜の木々が、今は青々と茂っている。

歴史的建造物を背景にした夏の風景を眺めながら、ボクはトートバッグから一冊の本を取り出した。


今ボクが読んでいるのは、哲学書だ。

理解するのは少し難しいが、新しい視点や考え方を得るることができるのが面白い。


本当は家でゆっくり過ごすつもりだったのに、“ある人物”に誘われて仕方なく河川敷に来ることにした。

最初は気が進まなかったけれど、今はこの場所に来てよかったと思う。


もう一度、天然水を飲んでボトルを置いて、ひと息ついた――そのとき。


「何読んでるの?」


背後からのぞき込むように声をかけられた。


「わあっ!」


突然のことで驚きの声を上げると、「うふふっ」と笑い声が聞こえた。


誰かと思ったら、この場所にボクを呼び出した張本人――花咲陽菜(ひな)さんだ。


「花咲さん、驚かせないでよ」

「ごめんごめん。そんなつもりはなかったんだけど、突然話しかけたらどんな反応をするのか気になっちゃって」


そう言って、にんまりとほほ笑む花咲さん。


果たしてそれは本当なのだろうか。


ボクは彼女に対して疑いが拭えなかった。


その理由は、彼女が“あるとき”からボクをからかうようになったからだ。