「次は、野菜を切らなければいけませんね」
「はぁ、だねぁ」
人との距離感がよく掴めていないミネに視線を向けると、高鳴っていくばかりだった心臓が少し落ち着きを見せる気がする。
「……あの」
心臓が落ち着きを見せるっていうのは、多分、良いことだと思う。
でも、心臓を落ち着かせていられない事態が俺のことを待っていた。
「なんで、また睨めっこなんだよ!」
前世では大声を上げる機会なんてものはなかったはずなのに、新しく始まった人生ではツッコみの量が半端ない。
ほんの少し大声を出すだけで、喉が痛くなってくる。
「なんでって、魔法を発動させるためです」
「野菜を切らなきゃ、煮込むことも炒めることもできないでしょ?」
二人は、さも当たり前のように野菜と向き合う。
でも、二人がカレーの材料になりそうな野菜たちと真剣な睨めっこを繰り広げたところで、魔法のまの字も発動しそうにない。
(え、え? この世界って、こんなにも魔法を使うのが難しいのか?)
魔法を発動させるって、こんな感じかな~って妄想だけで、理想的な魔法を発動させている自分は神的な何かなのかって自惚れてしまいそうになる。
「野菜を切るんだから、包丁使った方が早い……」
「包丁とは、なんですか?」
刃物の類を探しに行こうとしたが、その足すら止まってしまった。
「え、あー……」
もしかすると、包丁という言葉は日本限定の言葉なのかもしれない。
「ナイフ? カッター……は違うか。剣? ソード的な何かは……」
「何をおっしゃっているのかわかりませんが、野菜は風魔法を使って切るものですよ」
ミネは出会ったときから淡々とした口調だったが、それは今も変わることがない。
この銀白色の髪色の少女は淡々と、この世界には刃物の類が存在しないことを教えてくれる。
「え、ちょっと待った、何でご飯を食べて……」
「何って……」
こんな西洋風の世界観なのに、まさかナイフとフォークが存在しないなんてことがあるのか。
リリアネットさんが視線を向けた先に、俺も一緒になって視線を向ける。
「箸……」
「箸以外で、何を食べるというのですか」
「え、じゃあ、汁物……スープは!」
いかにもゲームの中にありそうな西洋風な世界なのに、この世界での食事は箸を使う文化だということを学ぶ。
さっきから新しい世界での学びが多すぎて、頭が爆発しそうになっている。
「スープは、スプーンです」
「スプーンはあるのかよ!」
ミネは自慢することなんて何もないはずなのに、堂々と銀製品で作られたスプーンを俺の目の前で自慢してみせる
(この淡々とした口調が、喉を痛める原因だ……)
俺はもっとミネにテンションを上げてほしいという意味合いも込めて、経験したこともないくらいの大声でツッコんでいくという展開を導いているのかもしれない。
「お味噌汁は、箸だよねぇ」
「味噌汁があるんですね……」
明日、不慣れな声を出したことが原因で喉が枯れてしまうかもしれない。
「ふふっ、アルトくん、異世界から来た人みたい」
「そんな物語のような展開があるわけないじゃないですか」
相変わらず、ミネは淡々とした口調で言葉を返していく。
(ってことは、野菜を切るのも魔法を使わなきゃいけないってこと……)
妄想の力を働かせたところで、包丁を召喚することはできない。
だったら、風魔法とやらで野菜を切るイメージを頭の中で広げていくしかない。
「え、アルトくん、本当に天才なんじゃない?」
妄想の力で魔法が使えるようになるのなら、こんなにも容易い術はないと思う。
包丁で野菜を切るイメージを妄想するだけで簡単に魔法は発動し、野菜たちはとんとんとんというリズムに乗って食べやすい大きさへと刻まれていく。
「なんとかさん、こちらもお願いします」
「アルトくん、こっちも!」
野菜だけでなく、本日の食事で使う肉を風魔法の力で切り分けていく。
(二人がこんなに頼ってくれるってことは、この世界、魔法を使える人間が少ないんじゃ……)
そんな発想に至るものの、ミネとリリアネットさんが野菜と睨めっこしていたことを思い出すと、その考えは打ち消されてしまう。
「なんとかさん、次は炎魔法です」
「はいはい、炒めればいいんだろ」
「正解です」
誰もが魔法を使うことができる世界っていうのに間違いはないんだろうが、その魔法の成功確率が異常なまでに低いということを察する。
(じゃあ、なんで俺ばっか、成功率が高いんだ?)
ここで調子に乗ってしまえばいいものの、調子に乗ったら乗ったで職場が別の場所になってしまいそうだったから考えることを諦めた。
「今日は美味しいお夕飯が食べられそうだねぇ」
「成功報酬、弾んでもらえるかもしれませんね」
ミネの成功報酬と言う言葉を聞いて、俺を誘拐した男たちは凶悪そうな外見に反して本当に調理担当の人間を探していただけなんじゃないかと悟る。
「新しいお洋服、買いたいなぁ」
「私は、ご飯のあとの甘い物が欲しいです」
「いいねぇ、いいねぇ」
ほんの少し先の未来に夢を抱く二人を見て、何がなんでも魔法を成功させて美味い食事を提供したいって気持ちが自然に生まれてくる。
「なんとかさん、大丈夫ですか」
「ん? 魔力とかそういうの? まったく問題ない」
「やっぱり、なんとかさんは天才なのかもしれませんね」
相変わらず名前を呼んでくれないミネに油断してしまって、ミネが笑いかけてくれた瞬間に目を奪われた。
喜びの感情と共に、ポニーテールで結んだ髪の毛がゆらゆらと揺れ動いているところが可愛いなんてことを想ってしまう。
(俺、気持ち悪すぎだろ……)
魔法を失敗したくないという意気込みを新たに、俺は発動させた炎魔法を頼りに食材に火を通していく。
肉に火を通したときは食欲が何十倍にも増し、この炎魔法を使うことができて良かったなんて感動まで芽生えてしまった。
「はぁ、だねぁ」
人との距離感がよく掴めていないミネに視線を向けると、高鳴っていくばかりだった心臓が少し落ち着きを見せる気がする。
「……あの」
心臓が落ち着きを見せるっていうのは、多分、良いことだと思う。
でも、心臓を落ち着かせていられない事態が俺のことを待っていた。
「なんで、また睨めっこなんだよ!」
前世では大声を上げる機会なんてものはなかったはずなのに、新しく始まった人生ではツッコみの量が半端ない。
ほんの少し大声を出すだけで、喉が痛くなってくる。
「なんでって、魔法を発動させるためです」
「野菜を切らなきゃ、煮込むことも炒めることもできないでしょ?」
二人は、さも当たり前のように野菜と向き合う。
でも、二人がカレーの材料になりそうな野菜たちと真剣な睨めっこを繰り広げたところで、魔法のまの字も発動しそうにない。
(え、え? この世界って、こんなにも魔法を使うのが難しいのか?)
魔法を発動させるって、こんな感じかな~って妄想だけで、理想的な魔法を発動させている自分は神的な何かなのかって自惚れてしまいそうになる。
「野菜を切るんだから、包丁使った方が早い……」
「包丁とは、なんですか?」
刃物の類を探しに行こうとしたが、その足すら止まってしまった。
「え、あー……」
もしかすると、包丁という言葉は日本限定の言葉なのかもしれない。
「ナイフ? カッター……は違うか。剣? ソード的な何かは……」
「何をおっしゃっているのかわかりませんが、野菜は風魔法を使って切るものですよ」
ミネは出会ったときから淡々とした口調だったが、それは今も変わることがない。
この銀白色の髪色の少女は淡々と、この世界には刃物の類が存在しないことを教えてくれる。
「え、ちょっと待った、何でご飯を食べて……」
「何って……」
こんな西洋風の世界観なのに、まさかナイフとフォークが存在しないなんてことがあるのか。
リリアネットさんが視線を向けた先に、俺も一緒になって視線を向ける。
「箸……」
「箸以外で、何を食べるというのですか」
「え、じゃあ、汁物……スープは!」
いかにもゲームの中にありそうな西洋風な世界なのに、この世界での食事は箸を使う文化だということを学ぶ。
さっきから新しい世界での学びが多すぎて、頭が爆発しそうになっている。
「スープは、スプーンです」
「スプーンはあるのかよ!」
ミネは自慢することなんて何もないはずなのに、堂々と銀製品で作られたスプーンを俺の目の前で自慢してみせる
(この淡々とした口調が、喉を痛める原因だ……)
俺はもっとミネにテンションを上げてほしいという意味合いも込めて、経験したこともないくらいの大声でツッコんでいくという展開を導いているのかもしれない。
「お味噌汁は、箸だよねぇ」
「味噌汁があるんですね……」
明日、不慣れな声を出したことが原因で喉が枯れてしまうかもしれない。
「ふふっ、アルトくん、異世界から来た人みたい」
「そんな物語のような展開があるわけないじゃないですか」
相変わらず、ミネは淡々とした口調で言葉を返していく。
(ってことは、野菜を切るのも魔法を使わなきゃいけないってこと……)
妄想の力を働かせたところで、包丁を召喚することはできない。
だったら、風魔法とやらで野菜を切るイメージを頭の中で広げていくしかない。
「え、アルトくん、本当に天才なんじゃない?」
妄想の力で魔法が使えるようになるのなら、こんなにも容易い術はないと思う。
包丁で野菜を切るイメージを妄想するだけで簡単に魔法は発動し、野菜たちはとんとんとんというリズムに乗って食べやすい大きさへと刻まれていく。
「なんとかさん、こちらもお願いします」
「アルトくん、こっちも!」
野菜だけでなく、本日の食事で使う肉を風魔法の力で切り分けていく。
(二人がこんなに頼ってくれるってことは、この世界、魔法を使える人間が少ないんじゃ……)
そんな発想に至るものの、ミネとリリアネットさんが野菜と睨めっこしていたことを思い出すと、その考えは打ち消されてしまう。
「なんとかさん、次は炎魔法です」
「はいはい、炒めればいいんだろ」
「正解です」
誰もが魔法を使うことができる世界っていうのに間違いはないんだろうが、その魔法の成功確率が異常なまでに低いということを察する。
(じゃあ、なんで俺ばっか、成功率が高いんだ?)
ここで調子に乗ってしまえばいいものの、調子に乗ったら乗ったで職場が別の場所になってしまいそうだったから考えることを諦めた。
「今日は美味しいお夕飯が食べられそうだねぇ」
「成功報酬、弾んでもらえるかもしれませんね」
ミネの成功報酬と言う言葉を聞いて、俺を誘拐した男たちは凶悪そうな外見に反して本当に調理担当の人間を探していただけなんじゃないかと悟る。
「新しいお洋服、買いたいなぁ」
「私は、ご飯のあとの甘い物が欲しいです」
「いいねぇ、いいねぇ」
ほんの少し先の未来に夢を抱く二人を見て、何がなんでも魔法を成功させて美味い食事を提供したいって気持ちが自然に生まれてくる。
「なんとかさん、大丈夫ですか」
「ん? 魔力とかそういうの? まったく問題ない」
「やっぱり、なんとかさんは天才なのかもしれませんね」
相変わらず名前を呼んでくれないミネに油断してしまって、ミネが笑いかけてくれた瞬間に目を奪われた。
喜びの感情と共に、ポニーテールで結んだ髪の毛がゆらゆらと揺れ動いているところが可愛いなんてことを想ってしまう。
(俺、気持ち悪すぎだろ……)
魔法を失敗したくないという意気込みを新たに、俺は発動させた炎魔法を頼りに食材に火を通していく。
肉に火を通したときは食欲が何十倍にも増し、この炎魔法を使うことができて良かったなんて感動まで芽生えてしまった。