「初めまして、ミネです。さっさと中に入ってください」
小学生と大差ない外見の少女がどうやって鉄の扉を開けたんだと仕掛けを知る前に、ミネと名乗った少女は再び鉄の扉をいとも簡単に開けてみせた。
「リリアネットさん、人手の到着です」
「よっしゃーーーー!!!!」
鉄の扉の向こう側に待っていたのは、桜の花を思い出させる淡い桃色の髪色の少女。
そして、独房のような場所に連れてこられたとは思えない清潔感のある厨房。
「え、え、え?」
厨房と言っても、大きなレストランを運営するような大きさのものではない。
ここにいる三人で回せるようなレイアウトの厨房になっていて、この厨房に連れてこられたのは運命なんじゃないかと思ってしまうほど。
「さっさと野菜の皮を剥きましょう」
「うん、うん! これで成功確率は上がったんじゃないかなぁ~」
ミネと名乗った少女は腰あたりまでの長さある髪を結って、ポニーテールの状態を生み出す。
リリアネットと呼ばれた桃色の髪の少女は、こちらも器用にウェーブのかかった髪を綺麗に魅せるツインテールへと自分の状態を整えていく。
「あなたは、玉ねぎの皮を剥いてください」
新しく人生が始まったのを自覚できたものの、まさか現代日本でも馴染みのある食材が目の前に用意されるとは思ってもみなかった。
「あ、手を洗うのが先ねぇ」
ミネが小柄なこともあって、リリアネットという少女は随分とお姉さんっぽく見える。
大人と子どもの境目くらいの顔立ちで、俺が無事に高校生になれていたら高校三年くらいなのかなぁって妄想を広げる。
「水って……」
「魔法を使ってください」
「…………」
は?
と心の中で思ったことは、この場にいる二人にはどうか伝わらないでほしい。
魔法と呼ばれるアニメやゲームの世界にしか存在しない力の使い方なんて、現代日本では教えてくれない。
無知な自分を曝け出すのが恥ずかしくて、俺は言葉を出すのすら躊躇ってしまう。
「手を洗うのに、何十分かかるかなぁ」
「そんな人材は求めていません」
女の子チームは朗らかな雰囲気の中で、それぞれニンジンとじゃがいもの皮を剥くための準備を整えてい……た……?
「あの、お二人は何をやって……」
「見て分かりませんか。食材を洗うんです」
「ねぇ」
二人の間で、次の工程は決まっているらしい。
けれど、俺の視界に映るのは、ニンジンとじゃがいもと真剣に睨めっこをしている二人の姿。
二人はニンジンと玉ねぎの皮を剥くなんて展開とは程遠いところにいて、表情の存在しない野菜たちと終わらない睨めっこを続けていく。
(睨めっこをすれば、魔法が発動する……?)
見様見真似。
魔法の使い方なんて習ったこともないんだから、二人を模倣して何もないところから水を誕生させるしかない。
(手を洗うんだから、まずは手を差し出して……)
魔法で発動した水が流れていくように、流し台へと両手を伸ばす。
(この世界、石鹸あるのかな……)
この世界には存在しない未知なるものを誕生させてしまったら、それこそ物珍しさで自分は凶悪そうな男たちに売り飛ばされてしまうかもしれない。
(見つからないように、こっそりと……)
新しい人生が始まったばかりで、手を洗うって展開になるとは思ってもみなかった。
それでも衛生的な環境で過ごしてきた前世を思い出すと、久々に手を洗うって感覚が懐かしすぎて泣けてきそうになる。
「おっ」
前世を懐かしんだのが功を奏したのか、俺は見事に何もないところから水を召喚させることに成功した。
石鹸の泡が混ざった水なのか、手を擦り合わせると石鹸の香りが程よく漂って心地いい。
「えっ、凄い……もう、水が出ちゃったの?」
桃色の髪のお姉さんに、手を洗っている様子を覗かれる。
何もやましいことはしていないはずなのに、手を洗っているってだけで羞恥心のようなものが生まれてくるのは何故なのか。
「こんなの……別に普通ですよ」
生まれてくる羞恥心を紛らわせるために、急いで石鹸の滑りのようなものを流水で洗い流していく。
「それがねぇ、普通じゃないんだよ」
「何が……」
手を洗い終わって、タオルか何かありませんかと尋ねる予定だった。
でも、その予定はものの見事に覆された。
「水魔法を失敗すると、こうなります」
「って、うわぁぁぁぁ」
新しい人生が始まってからというもの、前世の自分が発したことのないような奇声を上げ続けている気がする。
現実に『うわぁぁぁぁ』なんて叫び声を上げる機会が本当にあるなんて、前世を生きた俺に説明しても理解してもらえないだろう。
「ミネさん……? ミネ? あー、もう、分かんないけど、魔法を止めろっ!」
「止まらないから、困り果てているんです」
「魔法って、難しいよねぇ」
ミネは食材を洗う準備を整えていたはずだが、そこに待っていたものは水が噴き出る噴水のような大惨事。
厨房が水浸しになるのはもちろんのこと、この場にいた全員がミネの水魔法の犠牲になってしまった。
小学生と大差ない外見の少女がどうやって鉄の扉を開けたんだと仕掛けを知る前に、ミネと名乗った少女は再び鉄の扉をいとも簡単に開けてみせた。
「リリアネットさん、人手の到着です」
「よっしゃーーーー!!!!」
鉄の扉の向こう側に待っていたのは、桜の花を思い出させる淡い桃色の髪色の少女。
そして、独房のような場所に連れてこられたとは思えない清潔感のある厨房。
「え、え、え?」
厨房と言っても、大きなレストランを運営するような大きさのものではない。
ここにいる三人で回せるようなレイアウトの厨房になっていて、この厨房に連れてこられたのは運命なんじゃないかと思ってしまうほど。
「さっさと野菜の皮を剥きましょう」
「うん、うん! これで成功確率は上がったんじゃないかなぁ~」
ミネと名乗った少女は腰あたりまでの長さある髪を結って、ポニーテールの状態を生み出す。
リリアネットと呼ばれた桃色の髪の少女は、こちらも器用にウェーブのかかった髪を綺麗に魅せるツインテールへと自分の状態を整えていく。
「あなたは、玉ねぎの皮を剥いてください」
新しく人生が始まったのを自覚できたものの、まさか現代日本でも馴染みのある食材が目の前に用意されるとは思ってもみなかった。
「あ、手を洗うのが先ねぇ」
ミネが小柄なこともあって、リリアネットという少女は随分とお姉さんっぽく見える。
大人と子どもの境目くらいの顔立ちで、俺が無事に高校生になれていたら高校三年くらいなのかなぁって妄想を広げる。
「水って……」
「魔法を使ってください」
「…………」
は?
と心の中で思ったことは、この場にいる二人にはどうか伝わらないでほしい。
魔法と呼ばれるアニメやゲームの世界にしか存在しない力の使い方なんて、現代日本では教えてくれない。
無知な自分を曝け出すのが恥ずかしくて、俺は言葉を出すのすら躊躇ってしまう。
「手を洗うのに、何十分かかるかなぁ」
「そんな人材は求めていません」
女の子チームは朗らかな雰囲気の中で、それぞれニンジンとじゃがいもの皮を剥くための準備を整えてい……た……?
「あの、お二人は何をやって……」
「見て分かりませんか。食材を洗うんです」
「ねぇ」
二人の間で、次の工程は決まっているらしい。
けれど、俺の視界に映るのは、ニンジンとじゃがいもと真剣に睨めっこをしている二人の姿。
二人はニンジンと玉ねぎの皮を剥くなんて展開とは程遠いところにいて、表情の存在しない野菜たちと終わらない睨めっこを続けていく。
(睨めっこをすれば、魔法が発動する……?)
見様見真似。
魔法の使い方なんて習ったこともないんだから、二人を模倣して何もないところから水を誕生させるしかない。
(手を洗うんだから、まずは手を差し出して……)
魔法で発動した水が流れていくように、流し台へと両手を伸ばす。
(この世界、石鹸あるのかな……)
この世界には存在しない未知なるものを誕生させてしまったら、それこそ物珍しさで自分は凶悪そうな男たちに売り飛ばされてしまうかもしれない。
(見つからないように、こっそりと……)
新しい人生が始まったばかりで、手を洗うって展開になるとは思ってもみなかった。
それでも衛生的な環境で過ごしてきた前世を思い出すと、久々に手を洗うって感覚が懐かしすぎて泣けてきそうになる。
「おっ」
前世を懐かしんだのが功を奏したのか、俺は見事に何もないところから水を召喚させることに成功した。
石鹸の泡が混ざった水なのか、手を擦り合わせると石鹸の香りが程よく漂って心地いい。
「えっ、凄い……もう、水が出ちゃったの?」
桃色の髪のお姉さんに、手を洗っている様子を覗かれる。
何もやましいことはしていないはずなのに、手を洗っているってだけで羞恥心のようなものが生まれてくるのは何故なのか。
「こんなの……別に普通ですよ」
生まれてくる羞恥心を紛らわせるために、急いで石鹸の滑りのようなものを流水で洗い流していく。
「それがねぇ、普通じゃないんだよ」
「何が……」
手を洗い終わって、タオルか何かありませんかと尋ねる予定だった。
でも、その予定はものの見事に覆された。
「水魔法を失敗すると、こうなります」
「って、うわぁぁぁぁ」
新しい人生が始まってからというもの、前世の自分が発したことのないような奇声を上げ続けている気がする。
現実に『うわぁぁぁぁ』なんて叫び声を上げる機会が本当にあるなんて、前世を生きた俺に説明しても理解してもらえないだろう。
「ミネさん……? ミネ? あー、もう、分かんないけど、魔法を止めろっ!」
「止まらないから、困り果てているんです」
「魔法って、難しいよねぇ」
ミネは食材を洗う準備を整えていたはずだが、そこに待っていたものは水が噴き出る噴水のような大惨事。
厨房が水浸しになるのはもちろんのこと、この場にいた全員がミネの水魔法の犠牲になってしまった。