凄く驚くことはないものの、今まで大空の前では行くことを前提に会話を進めていた。
そんな密かに隠していた事実が、いつの間にか知られているというのはあまり気分のいいものではない。

確かに熱を出す前、母親に留学はどうするのかとサラッと聞かれた気もする。
それに「悩んでいる」と答えた記憶も微かにある。

おそらく、熱を出したときなんかに連絡を取り合ったのだろう。

二人はそれなりの頻度で連絡を取り合っているし、お互いを信頼しているように見えるから母親が俺のことをベラベラ喋るのも容易に想像できる。

「清夏、あんなに海外に行きたがってたじゃん。何を悩むことがあるの?」

俺の母親に何となく理由を聞いてくれないかとか言われたのか。
大空のことだから、何か言われずとも気にかけてくれたかもしれない。

俺は意味もなく、手に持つ本のページをパラパラと捲った。

表に出さないように注意しながら焦りを落ち着かせる。

「大空が好きで高校卒業までの時間を一緒に過ごしたいから」とは絶対に言えない。

でも、ここでい嘘を吐けるかと言われると怪しいところだ。

何と、言えばいいんだろう。

迷いに迷って本を見る目の焦点が合わない。

「好きな人?」
「え……」

まさか大空が自力で答えに辿り着くとは思わなかった。

どんな思考回路で導き出せるのか問い詰めたいくらい不思議でならない。