"月の光をごらんよ。なんてあったかいんだろ。ぼく、飛べそうな気がするよ!"

俺はこの言葉がムーミンの自然の美しさへの感嘆と共に自由や夢、憧れ、好きなことに向かう意味もある気がした。

自分が例え汚いとしても、月という美しいものを美しいと感じ、言葉にでき、それに手を伸ばせる。

美しいものだけじゃない。

素晴らしいものに素晴らしいと言える。

言葉にするだけじゃない。

やりたいと思ったことをやりたいと言って実行に移せる。

愛しているものに愛していると思いを伝える。

そんな場所にいる。

まだ世界への興味しか抱いていなかった俺はこの言葉に、上手く見えていなかった足元や先が一気にクリアになって俺の進みたい道がはっきりとわかった気がした。

そして、世界への興味は憧れへと、最終的には夢へと変わり、思った。

世界へ見て、知って、感じるままに。
働いたり、そこに住んだり、旅をしたり。
それこそが俺の自由だ、と。

「よく覚えてたな」
「勿論。押し付けて無理やりにでも読ませて良かったよ」

冗談には聞こえないところが大空らしい。

そよ風が大空の髪を靡かせる。

暫く俺も大空も口を開かない。

お互いに何も言わないで時間が過ぎていくことは珍しくはなかった。

俺は特に会話をしようとするわけでもなく、本に目を移す。

五分ほど経って、大空が沈黙を破った。
が、その声は弱々しく、言うか言わないか迷っているのがわかった。

「ねぇ、清夏……おばさんから聞いたんだけど、留学迷ってるんでしょ」