でも、落ち着いて考えるとゆいくんとは名字が違うことに気がついた。
ゆいくんの名字は、確か日生だったから。
きっと違う。そんな奇跡は起きたりしない。
名前が同じでも全く違う人も世の中には存在するのだから。
そう言い聞かせて、心を落ち着かせた。
「じゃあ、君の名前は?」
「えっと、私の名前は......花野紡希です」
私の名前を告げた瞬間、目を大きく見開く。
「名前......どんな字を書くの?」
確認をとるようにして尋ねられた。
「紡ぐの『紡』に希望の『希』で紡希です」
しっかり答えると、また大きく見開いた。
少し考えるようにした後、私に向ける顔がさっきと少し変わったような感じがした。
「そうなんだね。とっても良い名前だ」と優しく微笑む。
名前を褒められることは初めてで嬉しい。でも悲しい気持ちも混ざる。
私の名前を付けた時の”由来”を思い出してしまうから。
顔に思っている気持ちを出さないように意識する。
「名前、紡希ちゃんって呼んで良いかな?」
家族と学校の人たち以外で誰かに名前を呼ばれりしたのはいつぶりなんだろう。
急でいて慣れないような感じがする。
それでも、名前を呼ばれることが少し嬉しくて「うん」と頷いた。
「あの......泉水さんは、高校何年生なんですか?」なんて名前を呼べば良いのか迷ってしまった。同い年だったいいなと、少し思ってしまう。
「僕の名前は、唯純って呼んで良いよ。高校1年生です」
ということは、同い年だ。
「えっと......ゆっ、唯純くん。じゃあ、私と学年は同じですね」
呼び捨てで呼ぶのに抵抗があって、君付けで呼ぶことにした。
「じゃあ、年齢も学年も一緒だね」と唯純くんは嬉しそうに笑う。
そうしていると五時を知らせる『夕焼け小焼け』が流れ始めた。
公園は少ししたら、帰ろうと思っていたのに、いつの間にか長い間ここにいたことに気がつく。
ここは、家とは真反対の場所にあるからそろそろ帰らないといけない。帰るのにも時間が掛かるから。
時間が遅くなりすぎてしまったら怒られてしまう。
「絵を見せてくれてありがとう。もう帰らないと行けないから帰りますね」
軽く頭を下げて唯純くんに背を向けて歩こうとした。
でも、そのとき。
唯純くんが、私の腕を掴んだ。
「また、ここに来てくれる?」
えっ?
どうして、そう聞いてくるのだろう。
そうしてほしいと望むような顔をして。
まだ知らないことが沢山あるはずの、こんな私のことを。
正直もう、ここに来ることはないと思っていた。
まだ、この公園が存在していて、あの頃のままのところが多いと知れただけで十分だったから。
私はこの公園は輝かしく見えて、辛い。今の私じゃあ、きっと似合わない場所だ。
このままこの公園を去ったらまた、市立図書館で過ごしたりするただの日常に戻ることになるだろう。
それでも、いいと思った。
―――なのに。
私を必要だと居てほしいと思ってくれているのならと、思い上がる。
そんな存在は今は居ないからと、ないものねだりをしてしまう。
勝手に良い方向に好都合に考えて。馬鹿な考え方だってわかってる。
それでも小さな希望を感じて、掴んで来たこの手を振り払うことなんで出来なかった。
だから「うん......またここに来る」と振り返って伝えた。
少しは笑うことができているかな?
自信なんてないけど、そうだったらいいなと思う。
私の腕を掴んでいた手は、ほどけて離れていった。
そして「急に引き止めちゃってごめんね。それじゃあ、また明日」と唯純くんは笑顔で私を送り出す。
明日......そんなことを考える日が来るとは思ってもみなかった。
毎日が辛くて、考える余裕なんてないから。
これをきっかけに良い方向に少しでもなにか変わるのならと願っていられずにはいられない。
「うん、また明日」と私も言葉を返し、この公園を後にする。
なんだか、夢の中を歩くように足下がふわふわとしていた。
ゆいくんの名字は、確か日生だったから。
きっと違う。そんな奇跡は起きたりしない。
名前が同じでも全く違う人も世の中には存在するのだから。
そう言い聞かせて、心を落ち着かせた。
「じゃあ、君の名前は?」
「えっと、私の名前は......花野紡希です」
私の名前を告げた瞬間、目を大きく見開く。
「名前......どんな字を書くの?」
確認をとるようにして尋ねられた。
「紡ぐの『紡』に希望の『希』で紡希です」
しっかり答えると、また大きく見開いた。
少し考えるようにした後、私に向ける顔がさっきと少し変わったような感じがした。
「そうなんだね。とっても良い名前だ」と優しく微笑む。
名前を褒められることは初めてで嬉しい。でも悲しい気持ちも混ざる。
私の名前を付けた時の”由来”を思い出してしまうから。
顔に思っている気持ちを出さないように意識する。
「名前、紡希ちゃんって呼んで良いかな?」
家族と学校の人たち以外で誰かに名前を呼ばれりしたのはいつぶりなんだろう。
急でいて慣れないような感じがする。
それでも、名前を呼ばれることが少し嬉しくて「うん」と頷いた。
「あの......泉水さんは、高校何年生なんですか?」なんて名前を呼べば良いのか迷ってしまった。同い年だったいいなと、少し思ってしまう。
「僕の名前は、唯純って呼んで良いよ。高校1年生です」
ということは、同い年だ。
「えっと......ゆっ、唯純くん。じゃあ、私と学年は同じですね」
呼び捨てで呼ぶのに抵抗があって、君付けで呼ぶことにした。
「じゃあ、年齢も学年も一緒だね」と唯純くんは嬉しそうに笑う。
そうしていると五時を知らせる『夕焼け小焼け』が流れ始めた。
公園は少ししたら、帰ろうと思っていたのに、いつの間にか長い間ここにいたことに気がつく。
ここは、家とは真反対の場所にあるからそろそろ帰らないといけない。帰るのにも時間が掛かるから。
時間が遅くなりすぎてしまったら怒られてしまう。
「絵を見せてくれてありがとう。もう帰らないと行けないから帰りますね」
軽く頭を下げて唯純くんに背を向けて歩こうとした。
でも、そのとき。
唯純くんが、私の腕を掴んだ。
「また、ここに来てくれる?」
えっ?
どうして、そう聞いてくるのだろう。
そうしてほしいと望むような顔をして。
まだ知らないことが沢山あるはずの、こんな私のことを。
正直もう、ここに来ることはないと思っていた。
まだ、この公園が存在していて、あの頃のままのところが多いと知れただけで十分だったから。
私はこの公園は輝かしく見えて、辛い。今の私じゃあ、きっと似合わない場所だ。
このままこの公園を去ったらまた、市立図書館で過ごしたりするただの日常に戻ることになるだろう。
それでも、いいと思った。
―――なのに。
私を必要だと居てほしいと思ってくれているのならと、思い上がる。
そんな存在は今は居ないからと、ないものねだりをしてしまう。
勝手に良い方向に好都合に考えて。馬鹿な考え方だってわかってる。
それでも小さな希望を感じて、掴んで来たこの手を振り払うことなんで出来なかった。
だから「うん......またここに来る」と振り返って伝えた。
少しは笑うことができているかな?
自信なんてないけど、そうだったらいいなと思う。
私の腕を掴んでいた手は、ほどけて離れていった。
そして「急に引き止めちゃってごめんね。それじゃあ、また明日」と唯純くんは笑顔で私を送り出す。
明日......そんなことを考える日が来るとは思ってもみなかった。
毎日が辛くて、考える余裕なんてないから。
これをきっかけに良い方向に少しでもなにか変わるのならと願っていられずにはいられない。
「うん、また明日」と私も言葉を返し、この公園を後にする。
なんだか、夢の中を歩くように足下がふわふわとしていた。