「この公園。実はさ、幼い頃はよく遊んでいた思い出のある場所なんだ」
 懐かしそうに目を細めて、顔を上げてまだまだ明るい空とこのベンチから見える景色を眺める。
 私もゆっくりと顔を同じ方へと向けた。

「私も同じです。今日、夢で幼い私がこの公園で遊んでいるところを見たんです。それで懐かしいと思って、なんとなく久しぶりに来てみたんです」

 なにも知らない人に今日起きたことを躊躇わずに言えた。話しやすいとそう思っている自分がいる。今までこんなことなんてなかったのに不思議だ。

「そうだったんだね。僕は最近、またこのひかり公園に来るようになったんだけど、幼かった頃のままでほとんど、なにも変わってないよね。少し新しくなっているようなところがあるけど、あそこのブランコとかアスレチックとか滑り台とか」
 指でひとつひとつ横からなぞるようにゆっくり指していった。

「うん、ほとんどあまり変わってなくて良かったです」
 幼い頃と今を重ねるようにしながら見渡していく。
「他の公園とかはさ、遊具とかだんだん古くなっていって危なくなって、新しく作り直すところもあるらしいから、ここもいつそうなってしまうのか分からない。だから絵で形を残したいと思って、今描いているんだ」

 絵にして形を残すという発想が浮かぶなんてすごいと思った。私だったらそんな発想は思いつかない。

「その考え方とっても良いと思います」
「そうかな。ありがとう」と無邪気な笑顔を浮かべた。
 
 ここからだからこそ見ることができる、この風景を静かに眺める。目を背きたいと思ってしまうところもあるけど、もう少しだけ、見てみようって。時間を忘れてしまいそうなほど、ずっと見ていてもあきない。
 
「あっ、そういえばお互いに名前分からないままだったよね。名前も知らない人とこんなにゆったりしたり話したりするのも、おかしいよね、ごめんね」
 私もそのことをすっかり忘れていた。
 彼は慌てたようにして、スケッチブックやパレットにある絵の具が乾いてしまわないように水を多く含んだ筆で伸ばしたりする。それができたら筆を置いた。

「僕の名前は、泉水唯純(いずみゆいと)

「いずみ、ゆい......と」

「うん。唯一の『唯』に純粋の『純』で唯純って言うよ」

 えっ?

 声や表情に出ないように意識しながらそっと驚く。
 だって、その名前は......幼き頃に離れ離れになった幼馴染と同じ読みで漢字も一緒の名前だったから。
 ゆいくんの本名。