でも、それを彼に言う事は許されないはずだ。
 ひっそりと、その想いを抱えて生きていくはずだったのに。
 由梨香は、お腹をソッと触ってみる。まだ大きくなく、お腹は出ていない。だけど、このお腹の中に新しい命が宿っている。

「ごめんね。パパの居なくて」

 涙が止まらなかった。子供にも申し訳ない事をしてしまった。でも、それでも私は彼の子を産みたい。育てていきたいと思った。

 それからの行動は早かった。由梨香は事情を田舎に居る両親に話した。
 もちろん激怒された。父親は恵一なのか? と聞かれたが答えなかった。彼には迷惑をかけたくなかったから。
 堕ろすようにも言われたが、由梨香は何度も頭を下げて産みたいと訴えた。
 父は大反対だったが、母が説得してくれて条件をつける事で許可をもらった。
 通っていた大学は辞めて田舎に戻ること。将来のために資格を取ること。
 子供の面倒や出産費用は自分で。
 もちろん大変な事は分かっている。それでも子供の命を守りたいから、その条件を受け入れた。

 そして月日が流れて、由梨香は元気な男の子を出産する。名前は恵太(けいた)
 彼の名前は一字もらった。元気でパパのように育ってほしいと願いを込めて。

 子育ては思った以上に大変だったが必死に資格を取った。こっそりと母が協力してくれたのは大きかっただろう。
 恵太が小学校に入学する頃には、由梨香は資格を活かして医療事務の仕事に就いた。
 実家から近い賃貸のアパートを借りてシングルマザーとして頑張っている。
 今日も仕事が終わり、息子の恵太を迎えに行くと、嬉しそうにボールを蹴りながらサッカーの事を話してくれた。

「僕さ、将来はミヤケイみたいな海外でも活躍するプロのサッカー選手になるんだ」