動揺を隠せないでいると、恵一は苦笑いする。

「日本の移籍が決まったんだ。これからは日本でサッカーが出来る。友人から聞いたよ。地元に帰ったって。だから会いに来たんだ……君に」

(私に!?)

 彼の返答に驚くが、どうやって接したらいいか分からないでいた。嫌な別れ方をした仲だ。今さら平気な顔で会うには心苦しい。
 すると彼の方から口を開いた。

「俺は君の噓に最初から気づいていたよ」

「えっ?」

 どういうことだろうか? 恵一の言っている意味が分からない。

「君が俺のために離れようとしていたこと。そして、最後の思い出にと関係を持とうとしていたこと」

「う、噓っ……何で!?」

 彼の言葉に驚かされる。必死に隠していたのに、全部お見通しだったなんて。
 すると恵一は悲しそうな顔で話し始めた。

「なんとなく周りが君に圧をかけているって事は感じていたんだ。俺も君と関わるのを反対されていたし。でも、君の事が好きだったし、離れるなんて考えられなかった。ずっと一緒に居たくて……あえて曖昧な関係で誤魔化していた。周りにも。でも、あの時……君の決心した表情を見たら心が揺らいだ。曖昧のままではいられないと」

 彼の重い言葉に、何も反論が出来なかった。

「だから、あの夜のこと。けして忘れなかった。ずっと……海外に行って、もっと有名になって君の事を迎えに行くつもりだった。誰にも文句を言わせないぐらいに強くなって。由梨香。君の優しい噓のお陰で俺はここまで来れたんだ。でも、ずっとやり残した事がある。俺のもう一つの夢を叶えてくれないか?」

 もう一つ夢?
 すると恵一は由梨香の前に向かってきた。たくましくなった彼を見上げる。