『ーーありがとうございました。では続いて、同じく生徒会長立候補の山本(やまもと)さん、お願いします』


「はい」



 機械を通して拡散された声に、私は返事をして立ち上がる。全校生徒が見渡せるステージの上で、緊張しないわけがない。心臓は今にも飛び出してきそうなほど激しい鼓動を繰り返しているし、手は冷や汗でベッタベタだ。でも、臆することはない。


 小さなマイクスタンドが立つ教壇の前まで足を運び、そこから見える景色を一望する。体育館は、所狭しと人で埋め尽くされていた。生徒はもちろん、ほとんどの先生もいる。全員の顔を見るのは流石に無理がある。だが、誰がどのようなことを考えているのか。それは、手に取るように分かった。とりわけ、私の頭髪を見てお喋りをしている人たちは。


 すうっと息を吸って、それからマイクに話しかける。



「皆さんこんにちは。この度、生徒会長に立候補しました、2年の山本紗夜(さよ)です。私の目標はーーっ」


 
 大切なところで、喉が詰まる。続きを話さない私に、体育館内が小さくざわめく。頭が真っ白になりかけたが、自分の胸に「大丈夫」と言い聞かせ、深呼吸を一回、行った。



「私の目標は、この学校を、誰もが生きやすい場所にすることです」