「龍神様の花嫁なんて、結局のところ、竜堂家に良いように使われているだけの使い捨ての駒と同じ。龍神様と離縁して、章太郎様の側妻になったら、わたしは竜堂の屋敷の中に閉じ込められて、子を産むまで、あの方の欲を満たすための道具にされるのよ。章太郎様のところに嫁ぎ直すくらいなら、このまま一生、一つ目の龍神様の妻でいたほうがずっとマシ」
「今からそんなに自棄になって、どうするのです? あなたが母君と同じ運命を辿るとは限らないでしょう」
御蔭は苦く笑うけれど、自棄にならずにはいられない。
「お母様と同じようにはならなくても、似たような目に合うに決まってるわ。章太郎様には正妻がいるんだもの。ここを出たら、自由も与えられずにひっそりと息を潜めて暮らさなければいけないのよ」
「自由がないのは、ここにいるのも同じでしょう」
「でも、ここには御蔭がいるわ」
龍神様の花嫁という古いしきたり。その下に、美雲神社に閉じ込められている葵に自由はない。
その状況は、龍神様の花嫁であっても、章太郎の元に嫁ぎ直しても同じ。だが、葵の話し相手になる御蔭がいるのもいないとでは全く違う。
龍神様の花嫁として外の人間との交流を絶たれた葵が孤独を感じずにいられたのは、御蔭がいたからだ。
それは、誰からも見えていないように扱われている御蔭も同じなのではないか。
「わたしがここを出たら、御蔭はどうするの?」
葵の問いかけに、御蔭は「そうですね……」と少し考え込むそぶりを見せる。