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「章太郎様は、葵の次の結婚相手として決して悪くはないでしょう。竜堂家の時期当主ですし、容姿も良いと評判ですよ」
 竜堂 章太郎との結婚についての不安を伝えると、御蔭は鯉の餌を池に投げ入れながら、ゆっくりとした口調で葵を宥めてきた。
「確かに、悪くはないわ。けれど、わたしはあの方がわたしを見る目が嫌い。わたしのことを欲の対象としか見ていないのがはっきりとわかるんだもの。今も、龍神様と離縁したあとに着てほしいと華やかな着物が贈られてきたのだけど……。着物からあの方の下心が透けて見えるようで、嫌気がしたわ。まだほかの方と婚姻関係にあるわたしの機嫌をとろうとする章太郎様のことを、奥様はどう思っているのかしら」
 不快げに、葵が柳眉をひそめる。
 龍神様との離縁した葵を迎えることになっている章太郎には、既に正妻がいる。
 子はいないらしいが、だからこそなおのこと、龍神様の次代の花嫁を産むための側妻をよく思わないだろう。
 先代の龍神様の花嫁であった葵の母が、離縁の後に嫁がされたのも既に結婚をしている男のところだった。
 母は次の龍神様の花嫁となる葵を産むまでも、産んだ後も、嫁いだ竜堂家の男の欲の対象にされ、正妻に疎まれ、葵が三つで龍神様の花嫁になったのと同時に、竜堂家から離縁された。
 母が竜堂家から追い出されていたことを、葵は成長してからキヨとマキノのウワサ話で知った。