弥音自身が来れなかった理由は分かる。月代家を警戒してのことだろう。弥夜がここへ来ることも危険なはずだった。もし、少しでも月代家の者に見られれば不信を招きかねない。
そんな危険を冒してまでここへと訪れてくれた弥夜。そして、危険を承知で娘をここへと向けさせた弥音。その誠実さと真心に日向は胸が締め付けられた。母と弥音がどんな間柄だったか、この一事だけでそれが分かる。伝わる。
周りが見つめる中、日向は瞼を伏せ、すっと息を吸った。そして、にこりと微笑む。
「お誘いありがとうございます。喜んで伺わせていただきます」
「……感謝します。ありがとう、日向さん」
「いいえ、こちらこそ。ありがとうございます」
深い感謝をもってお礼を伝える弥夜に、日向もまたお礼を伝えた。危険を承知でここまで来てくれたこと、自分と会いたかったこと。日向はそのことだけで嬉しかった。
「しかし、日向……」
「いいんです、燈燕さん」
言葉を向ける燈燕に、日向はゆっくりと首を振った。
「大丈夫です。わたしは、弥夜さんと、弥音様を信じています」
「ありがとう」
弥夜はもう一度深く一礼し……そして、すぐに日向へと近づいた。
「さあ、参りましょう。ここに長くいては月代が何をしてくるかわかりません。御案内します、皆さんも御一緒に」
弥夜は先へと歩き出した。続いて、日向と日愛、陽織、スズ――燈燕、灯澄にはまだ不満はあったが日向が決めたこと、後ろに続いて歩き出す。
日向は灯澄と燈燕の気持ちもわかっていた。だけれど、迷いはなかった。
自身の気持ちと――そして、母の、日和のことを聞いて服をぎゅっと握ってきた日愛。そのことで、自分の感じた気持ちが間違いでないことに気付く。
――これは、母に呼ばれたのだ。母と会うために。
日向と日愛はぎゅっと手を握り合う。蒼天の空はどこまでも澄み、二人を包むように優しい風が背中を押した。