「もしや、三尊月家(みとつきけ)の……」
「ああ、良かった、陽織様。覚えていてくださったのですね」

 陽織の言葉に少女は嬉しそうに微笑み、改めて、姿勢を正し一礼した。

「三尊月家当主、三尊月弥陀(みとつきみだ)の娘、三尊月弥夜(みとつき みや)と申します」
「やはり……弥音様の」
「はい、そうです。弥音は母となります。幼き頃、陽織様にはよくしていただいて……そして、日和様にも娘のように可愛がっていただきました」

 陽織と固く手を交わし、そうして、弥夜は日向へと視線を向けた。

「近くで見れば見るほど本当にお母様にそっくり……お会いできて嬉しいです、日向さん」
「母を……知っているのですね」
「はい、あの日々のことは忘れることはありません。幸せな楽しい日々……母も私も鮮明に覚えています」
「そうなのですね」

 きゅっと服を握ってくる日愛の頭を撫で、日向は弥夜へにこりと微笑を向けた。

「改めて、月隠日向と申します。わたしもお会いできて嬉しいです、弥夜様」
「様、だなんてつけないでください。歳もそう変わらず、それに、月隠家と三尊月はいわば親戚のような関係でした。日向さんが嫌でなければ、そのまま名前でお呼びください」
「では……弥夜さん」
「はい」

 お互いに見つめ、なんだか気恥ずかしくなって笑い合う。

「それで――」

 話がひと段落したのを見計らって、灯澄は静かな冷たい声を挟んだ。

「何のようでここに来た」

 今のやり取りで敵ではないことは分かり、灯澄も弥夜の母である弥音のことは知っているが、どうあれ月代家の人間。警戒は解かず、感情的にも好きにはなれない。声が冷たくなるのは仕様がなかった。
 そんな灯澄の心が伝わったのか、当然のことと弥夜も苦しい表情を一瞬見せ、そして、改めて姿勢を正すと自分の使命を伝えるべく口を開く。

「不思議に思うのは当然のこと。私がこうして追ってきたのを不信に疑うことも仕方がないことです――ましてや、月代がこのようなことをした後では」

 男たちを見下ろし、悲しく悔しい口調と共に拳を握り弥夜は日向へと視線を向けた。

「けれど、偶然とはいえ、宗家に我が家の者が居たことは幸運でした。事前に日向さんのことを知ることができ、私がここへ来ることもできました」

 すっと一礼し、澄んだ静かな口調に切実なる想いを込めて弥夜は日向へと願いを伝えた。

「母の名代としてここへ参りました。急なことで戸惑わられると思います。ですが、お願いです。僅かな時間で構いません。母に、弥音に会っていただけないでしょうか」
「弥夜さん……」

 弥夜の願いに、その姿勢に、日向は驚きと戸惑いとともに名を呟いた。