「確実に消せるとふんでいたのだろうよ。でなければ、暗殺の素人か。とはいえ、体躯を見る限り素人とも思えんが」
嘲りを込めて燈燕は言う。自身が特定されるようなものを持たないのが暗殺の鉄則だが、こうも簡単に月代の人間だと分かるようなものを身にしているとは、こちらを馬鹿にしている証拠だった。
「それで、こうも簡単に返り討ちにされるとはな。いい面の皮だ」
「大丈夫なのですか?」
笑う燈燕の気持ちも分からないまではなかったが――というより、狙われた本人なのでもっと憎んでもいいようなものなのだが――日向は男たちを気遣って灯澄に問いかけた。
「神の力に触れ、気を失っているだけだろう。じきに目覚める」
灯澄は立ち上がり――そして、日向たちの後ろへと視線を向けた。
日向も燈燕もすぐに視線を向ける。今まで歩いて来た月代の屋敷への道――そこに、一人の人間が立っていた。
「――まさか、こんなことを」
歳は十七か十八だろうか。日向よりも少し上くらいに見える。長い黒髪に紫藤の袴姿の少女は息を切らせ驚いた声を呟いた。
無防備に立ち止まり、驚いた声を上げる少女。その時点で敵ではないことは分かるが、敵でなくとも必ずしも味方かどうかは分からない。灯澄は警戒を解かず、少女を見定めた。こちらから安易に声をかけることはない。敵でないならば、情報は相手が伝えてくれる。
「後を追って来てみれば、これは……まさか月代の……」
「あなたは……」
と、最初に声を出したのは陽織だった。灯澄と燈燕が声をかけたことへの多少の不満を覚える中、陽織は少女に近づきその姿を見つめた。