もしやと思う。もしや、月隠の祖は神に縁する者ではなかったのか。そう考えるなら、癒滅の術も理解できる気がする。生命を与え、滅ぼす術。それは、万象に宿る神に近い力だった。
「――良い舞だった」
と、木々の奥から声が聞こえ、二人の女性と一人の幼子が陽の下に姿を現す。
一番最初に木の陰から抜け出した紅装束の女性、燈燕は日向、陽織の姿を確認し安心と共に笑った。
「危なくなればすぐに割り込むつもりだったが、その心配はなかったな」
「我らがでてくるほうが、よほど問題が面倒となる。月隠の当主はやはり妖と繋がっていたと思われるだろうからな。だから、スズに任せた」
燈燕の後ろに居る蒼装束の女性、灯澄は黒装束の男たちを見下ろし呟いた。予想通りではあるが――気分が悪くなるのは否めない。しかも、女二人に――いや、日向は少年だが――五人も差し向けてくるとは思わなかった。どれだけ恐れ、確実に消そうとしているのか。
「ははさま」
日愛は日向に駆け寄り抱きついた。日向もまた日愛を抱きしめ、頬を撫でた。
「ごめんなさい、日愛。一人にさせてしまって」
「ううん、灯澄と燈燕がいたからだいじょうぶ。ははさまは、だいじょうぶ?」
「ええ、大丈夫ですよ。ありがとう、日愛」
お礼を言われ嬉しそうに微笑み、日愛は甘えて日向の足にぎゅっと身体をくっつけた。
そんな二人を微笑ましく見つめて、陽織は黒装束の男たちへと視線を向けた。灯澄と燈燕も男たちに近づき、その姿を確認している。
「……甘く見られたものだな」
灯澄は男の黒装束の中を確認し、低く呟く。黒装束の下、その着物にはある刺繍が施されていた。
胸に描かれた家紋――月代の紋。