だからといって、本当に暗殺などということをするとは……やはりどこかに甘えがあったのかもしれない、元は一緒に居た家だっただけに、そんなことはしないと信じていた。
それだけ日向を邪魔に思っているといえる。だけれど、もう一つのことも心を占めていた。月代は、今までも邪魔な人間を消してきたのではないかと。妖だけではなく、人も害してきたのではないかと――そこまで考え、ゾッと冷たいものが心を通った。
人までも殺している――月代はそこまでの家になってしまったのか。
「…………」
こちらを女二人と思っているのか、それとも数の有利に安心しているのか、黒装束は警戒せずゆっくりとこちらへと近づいてきていた。
「――やめてください」
構える陽織を背に感じながら、日向はまったくの自然に凛と言い放った。
「わたしは、戦いたくありません」
――だが、
「――――」
当然、黒装束の男たちは応えることも、戦いを止めることもしなかった。日向の声など聞こえていないように、近づいてくる。
日向はぐっと拳を握り締めた。自分の声は届かない。どれだけ友好を望み、戦いを否定しても、聞いてももらえなかった。
リン――と鈴が鳴る。風に衣たゆたい、葉が日向を慰めるように舞う。
戦いはしない――だから、覚悟を決めた。願い、誓う。共に在り、力を貸してと。
日向は静かに瞳を閉じると、言の葉を、詩を紡いだ。神降ろしの詩、神楽の詩を――
「――千早ふる玉の御簾巻き上げて 神楽の声を聞くぞ嬉しき」
神迎えの詩が始まる。それは静かに、深々と、凛々と。
「幣たつるここも高天の原なれば 集まりたまへ四方の神たち――」
リン――と鈴を鳴らし、ゆらりと袖を振り、舞い踊る。
男たちは日向の気配に気付いたのだろうか。何故、日向が術衣を纏い、化粧までしていたのか――その本当の意を男たちも月代も悟っていない。母、日和の分身としてだけではない。女人と成ったのはこの為でもあった。
僅かに瞼を開け、日向は淡い微笑みと共に、颯と袂を躍らせた。リン、リン――と鈴が詠う。葉が流れ、凪が囁き、その清浄なる神迎えの詩は舞は整えられた。
『――木花咲耶姫』
ふわりと白き装束が舞い煌めいた。日向は漆黒の髪を靡かせ、静かな瞳を向ける。
それで戦いは終わっていた。