月代家の屋敷から出て行き、青々と茂る新緑の木々が周りを囲う帰路の途中――

「日向、大丈夫ですか」
「はい、ありがとうございます」

 微笑む日向に陽織は何も起きなかったことに内でほっと息をつき――すぐに憤りが生まれた。
 嘲笑だけで、何の言葉もなかった憤り。分かっていたことだったとしても、月隠に対して何もなかった。月隠のこと、日和のこと、日向のこと――全てのことに対して何一つ。

「…………」

 だが、今はとにかく日向が無事だったことを安心するべきだった。これで、灯澄と燈燕、日愛に合流できれば大丈夫だろう。自分にそう言い聞かせ、感情を抑える。

 ――そう、思っていた時だった。

「――――」

 日向が足を止め、後れて陽織も周囲の変化に気付く。

(やはり……)

 サァァァァァ――――

 葉が舞う中、その風に陰りが生じる。
 日向は悲しく木々を見つめた。折角の綺麗な風の囁きと葉の舞いだというのに――その舞台を壊すなんて。

 ――――ザッ

 地を滑り、四人――いや、林の中にもう一人居る。合わせて五人の黒い影が日向と陽織を囲んだ。
 妖ではない。黒装束に身を包み、顔を隠していたとしてもすぐに分かる。人の気配と、そして、かなりの武道の使い手と分かる体躯。
 何者ですか、などと問いかけることはしない。月代の屋敷からはかなり離れた奥まった場所――そう『狙う』とすれば絶好の場だった。そして、日向のことを知り、狙ってくるとするならば思い当たるのは一つしかない。そもそも、妖は日向のことは知らないのだ。

(話もせず、あっさり帰したと思ったけれど……)

 やはり、こういうことだったか、と陽織は内で呟いた。日向と背を合わせ、構えを取る。
 相手は月代の中でもかなりの手だれということは、気配だけで分かっていた。つまり、確実に消そうとしている。そして、その言い訳も分かっていた。おそらく「妖に襲われた」というのだろう。