「弥音様が、三尊月家の皆さんが庇ってくださっていたことはわたしも月隠の皆もよく知っております。感謝してもしきれません。ですから、もう、そんなことは仰らないでください」
「ですが……」
「弥音様、ありがとうございます」
日和の手から伝わる暖かさと優しさ――そして、強さ。
触れた弥音の手をギュッと握り、日和は微笑む。
「わたしは、上首の元へ参ります」
「ならば、私も共に行きます」
「それは駄目です。わたし一人で行きます」
「日和さんが駄目といっても、私は行きます。行かせてください」
「…………」
弥音もまた日和の手を握り、強く伝えた。そのことに、日和は嬉しくも悲しく笑い――握られた手を優しく解き、少しだけ間を空けた。
「そのお気持ちだけで……弥音様、ここはわたしの我侭を通させてください」
「聞けません。貴女を一人で行かせたならば、私は一生後悔します」
弥音の気持ちは本当に嬉しい……だけれど、それはしてはならないことだった。誰の為でもなく、弥音の為に。
思い悲しく、日和は言葉を続けた。
「……上首はそのことも量っていると思います」
「どういうことですか?」
「今回、上首が三尊月家へ月隠に行くよう命じたこと……おそらく、三尊月家の考えを量るためでもあると思うのです。ここで、月隠に同調すれば、三尊月家の立場が悪くなってしまいます。そして、上首はそれを見込んでいるはずです」
「…………」
弥音は黙った。今までのことを考えれば、大いに在り得ること……月隠家を庇うたびに我が家を見る上首の瞳は厳しいものとなっている。現に、直接的な動きはなくとも十一家の中での立場は悪くなっていた。
この期にふるいをかけ一掃しようとしているのかもしれない。もちろん、いかに上首の立場を持ってしても、軽々しく一掃などはできないだろうが、少なくとも「敵」を見分けることはできる。そう考えていてもおかしくはなかった。