伶龍に避けられるようになって、改めて私は刀についてなにも知らないのだと気づいた。
いや、一応祖母から通り一遍、教わってはいる。
しかしそれはうわべばかりで、ディープな部分についてはなにも知らない。
同じ刀である春光の気持ちを聞けば、少しくらい伶龍も理解できるのではないか。

「そうですね」

手についたクリームを舐めている春光は、どこからどう見てもただの小学生男子だ。
曾祖母と激闘を生き抜いたなんて普通の人は信じないだろう。

「目が覚めたときには自然と、自分は人間を守るために存在しているのだとわかりました」

そういえば伶龍も顕現したとき、「俺が戦うのは弱い人間のためだって、ここがいってる」
と胸を指していた。
そういうことなんだろうか。

「あとはもう無我夢中で。
とにかく穢れを倒し、光子様と生きて帰ることしか考えてなかったですね」

当時を思い出しているのか、つらそうに春光が目を伏せる。

「春ちゃんはもう、惚れ惚れするほど強かったんだよ」

ふふっと小さく笑い、曾祖母は紅茶をひとくち飲んだ。

「光子様もお強くて、安心して背中を任せられました」